#能楽と職人たち/田村民子

古典芸能、郷土芸能から祭りまで、日本の楽器を支える老舗商店

年功序列を廃止し、適材適所に

宮本卯之助商店の職人の数は近年でみると、25人から30人くらいで推移し、年齢は10代後半から70代中盤くらいだという。仕事場を見学させてもらうと、若い人が多いという印象だ。若い活気に満ちているその背景には、会社のしくみの変化があった。近年、年功序列制度よりもやる気と実力を重視したしくみに変えたというのだ。

「例えば、少し高い位置からものを考えることもできる人がいれば、若い人であっても重要なポストに就いてもらいます。一方、毎日もくもくと手を動かすのが向いている人は、年齢に関わらず、ものづくりに打ち込むポジションで力を発揮してもらいます」と芳彦さん。

徒弟制度という言葉もあるように、職人の世界は入門後の序列が固定化していることが多い。そうしたなかで、このように思い切った組織改革を実現できていることに驚く。


また、「働くしくみ」の工夫も目を引く。完全分業制にしない、というしくみである。太鼓の種類もいろいろあり、神輿という特殊なアイテムもある。木を削る、皮を張るなど、そのひとつひとつが専門性の高い作業だが、それをあえてローテーションで全員に経験させている。芳彦さんのねらいは、どこにあるのか。

「こういうしくみでやるのは、大変ではありますが、職人ひとりひとりが全体をわかっているほうが、総合的にいい面が多いんですよ。前工程、後工程がわかれば、どう気配りすればいいかも判断できます」。

筆者がよく知る職人集団では職人をひとつの種類の仕事に固定させている。専門性が高まって良い部分もあるが、職種間で変なライバル心ができることもあり、連携の不具合などの弊害も起こっている。組織の長が自分たちの職場を充分に分析し、最適な「働くしくみ」を具現化させることは非常に重要だ。それができていないと、たとえよい人材が職場に入っても、愛着をもって長く働き続けてくれない。

小鼓の漆塗り直し作業

ここで、冒頭にもあげた「若い人がやる気を出してくれない問題」について、芳彦さんに問いかけてみた。

「昔の職人のほうがどん欲に仕事に向かうのは、確かにそうだと思います。でも、社会性という点でみると昔の職人より今のほうが優れていますよ。今の若い人たちは、自分でやってみようかな、という環境を作ってあげないとチャレンジしないと思います。だったら会社全体にそういう雰囲気を作ればいい。時代に合わせた人の活かし方を考えていけばいいんです」。

職人集団の長は職人がなることが多いが、昔のように親方がワンマン経営で率いるのが難しくなっているようにも感じる。かといって、一足飛びに近代的な制度に切り替えてもうまくいかない。試行錯誤を粘り強く続け、よい落としどころを見つけていくしかない。


宮本卯之助商店には若くてやる気のある人がここで働きたいと多く集まってくるそうだ。長年築いてきたブランド力にプラスして、魅力的な情報発信を行っていることも効果を発揮しているのだろう。宮本卯之助商店のHPにはオンラインショップ職人ブログがあり世界中からアクセスできる。また、浅草に足を運べばショールームや太鼓の資料館でモノを見たり触れたりすることもできる。読者のみなさんもぜひ、その情報に触れてみていただきたい。