古典芸能、郷土芸能から祭りまで、日本の楽器を支える老舗商店

さまざまな分野の職人や歌舞伎の裏方を取材しているとベテランから「若い人のやる気が感じられない」という言葉がよく出る。50代以上のいわゆるタタキ上げ世代と、20代の若者世代は、同じ職人であっても、仕事に向かう意識の差が大きい。戦後の社会変化はかなり激しく、職人の世界も少なからず影響を受けているので当然ともいえる。そうしたギャップがある中で、質の高いものづくりを継承していくためには、多様な職人たちをうまく束ね、各人の力を効果的に引き出す環境づくりが必要だ。

小鼓の漆塗り直し作業

祭礼用の太鼓や神輿(みこし)とともに、能楽の小鼓、大鼓、太鼓を手がける宮本卯之助商店は、約30名の職人を抱える株式会社としてものづくりを行っている(従業員数は59名)。製造だけでなく、販売、修理、レンタル、太鼓の普及活動、神輿や山車、太鼓の無料診断サービス、さらに東北の被災地支援として郷土芸能の道具を復元するなど、先進的な動きを活発に展開している。元気のいい職人集団という印象だ。どんな風に職人たちは働いているのか、社長の宮本芳彦さんに話をきいた。

文化を担う道具をつくり続けるために


宮本卯之助商店は、幕末の文久元年(一八六一)の創業。扱う商品の比率は、神輿が三分の一、太鼓(小鼓、大鼓もここに含まれる)三分の一、周辺商品(お祭り用品など)三分の一くらい。芸能関連では、雅楽、能楽、歌舞伎、郷土芸能の楽器や道具を扱う。変わったところでいうと、能楽で多用される葛桶や狂言〈(たい)()(おい)〉で用いる背負子(しょいこ)を、作る人がいないからと頼み込まれて製作したこともあるそうだ。本社は東京都台東区の浅草寺の近くにあり、職人たちはここで仕事をしている。


宮本芳彦さんは一九七五年生まれで、二〇一〇年に八代目として就任した。イギリスで政治経済学を学んだ経歴もあるという。社長になることを見越しての渡英ではなかったそうだが、

「日本を外側から見るという経験が、非常に役立っています。政治経済と文化は、切っても切れない関係。その時代ごとに、どう文化を守っていくかは世相とのつながりで考えていくべき」だという。

俯瞰の視点からの切れ味よい言葉がポンポン飛び出す。