竜神その他〔舞働〕の類(2)
―春日龍神―
この曲は、春日明神が明恵上人の入唐渡天を押し止めるというだけのことで、前シテは明神の命によって時風秀行が化身した宮守の尉であり、後シテはこれまた明神の命で出現する竜神であるから、まさに脇能竜神物の一つといってよい。これが五番目―略脇能となっているのは演出の如何によることだと思う。つまり神性を強調して演ずれば紛れもない脇能になるが、怪異な竜神の動きということを主眼にすれば切能の趣になるのである。しかしこれは後場の話であって、前場はどう演出してみても脇能というほかないと思う。
―賀茂―
前場のシテとツレが女性だという、脇能としては非常に異色がある曲である。のみならず、この前シテは御祖の神と称する女神の化身であって、後場ではこの神がツレの天女として本体を現わし、別に後シテとして別雷の神が出現するというややこしい関係に出来ている。