狂言方大蔵流の大藏教義師が、11月29日(日)に第24回「吉左右会」を開催する。吉左右会は教義師の父で、昨年逝去された大藏吉次郎師が若手研鑽のために立ち上げた会。また、昨年より、同じ大蔵流の茂山家を招いて、異家共演も行っている。教義師にお話をうかがった。

大藏 教義(おおくら のりよし)
狂言方大蔵流。1981年、大藏吉次郎の長男に生まれる。大蔵流宗家・故大藏彌右衛門および父に師事。4歳で狂言「業平餅」の稚児役で初舞台。以後、「千歳」「那須」「三番三」「釣狐」を披く。重要無形文化財総合認定保持者。2007(平成19)年、従兄弟らとともに大蔵流若手狂言会「SHIN」を結成。
——吉左右会はどのような会でしょうか。
父(大藏吉次郎師。2025年逝去)が25年前に若手の研鑽の場として立ち上げました。立ち上げ当時は私も20歳で、当時の父の内弟子たちとそれぞれ初めての演目に挑戦しました。若手にとっては確かな手応えがあり、実力がついて自信にもなりましたので、父が亡くなった後も引き継いでいこうと思いました。
——昨年から茂山家をお呼びしているそうですね。
狂言はだいたい同じ家でやります。とくに家の子だと小さい頃からずっと一緒にやっているので、舞台での呼吸もお互いわかっていて、それはある意味で綺麗に整えられたものですが、予定調和なところがあるんですよね。それで、去年は茂山千之丞さんをお呼びして「宗論」をやりました。同流ですが他家の方と共演することで、自分の持ち味を出す、またお相手の方にそれを引き出してもらい、新しい自分の芸を作っていくチャレンジの場にしました。
茂山家は京都が拠点ですから、地域性なのでしょうか、独特の柔らかさや華やかさがあって、常に時間が早く流れているような東京とは違いを感じます。そういう違いを感じながら同じ舞台に立つことも大変勉強になります。
——今回は内弟子の上田圭輔師が「那須」(能「八島(屋島)」の替間だが、独立して演じられることもある。那須与一が扇の的を射るところを語るもので、所作を交えながら四役を一人で演じる)に挑戦するということですね。
狂言には、「謡・舞・語り」という三つの要素があります。私はこれらをきちんとやることができて、初めて狂言方という役職ができるのではないかと思っています。段階としても謡の次が舞、舞の次が語り、という順序だと思います。謡や舞は比較的に若い頃からできますが、語りとなると、声がしっかり作れていないといけませんし、緩急や強弱も必要ですから、ある程度大人になってからでないとできません。

上田は父の内弟子でしたが、今は私が引き継いでいます。四年程前に謡と舞のある「末広がり」を披きましたし、最近は間狂言の居語りの役もつけて経験を積んでいるので、今回はここで一皮むけてほしいという意味で、「那須」に挑戦してもらいます。
上田は二松学舎大学の狂言クラブで父の指導を受け、大学卒業と同時に入門しました。就職の内定を蹴って、狂言の道を選んだんです。私も学生を指導していて卒業生に会うことがありますが、就職してもすぐに辞める子がたくさんいるのを見ています。そういう若者が多い社会の中で、本当に自分の人生をかけて挑戦していくという生き方は、客観的に見てもとても大事なことだと思います。狂言の家の子ではない人が、わざわざ選んでこの道に進んできた姿を見てほしいと思います。
「芸の継承」とよく言われますが、能楽師の家に生まれていない人が内弟子に入って芸を継承するからこそ、意味があるのではないか、と思っています。能楽師の家に生まれた人は、継いでいくならやらざるを得ませんし、血縁があるから師匠の仕草や言い方が似てくるのは当たり前です。その家に生まれた者にとっての芸の継承という形もありますが、そうではない内弟子が、芸を継承したいとその世界に身を投じて、毎回稽古で怒られながらもひたむきにやっていく、という姿を見て、これこそが本当の芸の継承なのではないか、と考えさせられることがあります。

上田 圭輔(うえだ けいすけ)
昭和61年(1986年)生まれ。二松学舎大学文学部国文学科卒。2世大藏吉次郎及び教義に師事。22歳に入門。これまでに「末広がり」を披く。(公社)能楽協会東京支部会員
——今回の吉左右会の見どころを教えてください。
狂言は能の五番立てと同じように、大蔵流ですと、脇狂言・大名狂言・小名狂言・聟女狂言・鬼山伏狂言・出家座頭狂言・集狂言と七種に分類されています。番組ではこれらを組み合わせれば、あまり被ることはないのですが、装束は被らないように気をつけています。

同じ姓が多く、読み方も難しいのできちんと名前を覚えてもらうためにつけているそうだ。
まず、最初の「棒縛」は、大藏康誠(やすなり。基誠師の長男)と大藏章照(あきみつ。大蔵彌太郎の長男)の二十代、十代の若さ溢れる全力の「棒縛」を楽しんでいただきたいと思います。四十代の落ち着いた「棒縛」もあるでしょうが、縛られているのにお酒が飲みたいという人間の欲が表面にエネルギーとして出せるのは、若い人だからこそだと思うので、そのフレッシュさを楽しんでいただきたい。
「那須」は先ほども申しましたように、上田の芸を見ていただきたいです。
「鬼の継子」は力強い存在の鬼が、赤子を見てメロメロになって優しくなっていくというところが微笑ましく、演じるのは非常に難しい役どころでもあります。
「靱猿」は替装束の小書がつくと、大名の装束が一般的な素袍と烏帽子ではなく、騎射笠に弓籠手という狩りに行く姿となりますので、ビジュアルとしても楽しんでいただけると思います。今回は大名を茂山逸平さん、太郎冠者をご長男の慶和(よしかず)さんにお願いし、私は猿曳の役をさせていただきます。小猿は基誠の元で修業している人のお子さんです。逸平さんの大名は厳しさや力強さとか存在感があると思うので、そういうところをこちらも計算しながら、猿曳の柔らかさを出していけたらと思っています。


第24回「吉左右会」
◆日時
令和8年11月29日(日)
午後2時開演(午後1時15分開場)
◆会場
東急セルリアンタワー能楽堂(B2)
【番組】
おはなし 大藏教義
棒縛(ぼうしばり)
次郎冠者:大藏康誠 / 主人:大藏基誠/ 太郎冠者:大藏章照
那須(なす) 上田圭輔
鬼の継子(おにのままこ)
鬼:大藏彌太郎 / 女:吉田信海
靭猿(うつぼざる)
大名:茂山逸平 / 猿曳:大藏教義 / 太郎冠者:茂山慶和 / 小猿:田中銀二郎
◆チケット
| 席種 | 料金 |
|---|---|
| A席指定(正面席) | 7,000円 |
| B席自由(脇正面・中正面) | 5,000円(学生2,500円) |
◆お申し込み方法
・フォームズ(クレジット決済)https://ws.formzu.net/dist/S494078866/
・e+(イープラス)
https://magazine.hinoki-shoten.co.jp/?p=12760&preview=1&_ppp=394551ab10
・メール:kichijirou.kyougenkai@gmail.com
◆お問い合わせ
大蔵流吉次郎狂言会事務局
TEL:03-3329-1835
MAIL:kichijirou.kyougenkai@gmail.com