曲の解釈と謡い方【三、三番目物】(5)

① 大小序ノ舞の女性夢幻曲
〈東北、井筒、野宮、半蔀、夕顔、仏原、采女、楊貴妃、二人静、江口、定家、芭蕉、源氏供養(身延、梅)〉

〈井筒〉

この曲の情趣は既述(きじゅつ)のとおりであるが、主人公は振分髪(ふりわけがみ)の幼時からひとりの男を()(した)純真(じゅんしん)無垢(むく)な女性であり、その可憐(かれん)な風姿を包むに荒れ果てた古寺の秋の夜をもってしたのが本曲の曲趣であるから、艶美(えんび)静寂(せいじゃく)の二つが全曲ににじみ出るように謡えれば成功である。

前シテの出の長い謡で、シテの美しい風格をしみじみと味わしむるとともに、四囲の寂しい景情を心行(こころゆ)くばかりに感受せしむべきはいうまでもないが、そうした情趣は次の問答(もんどう)から初同(しょどう)へと続いて行く。問答については、〈東北(とうぼく)〉で述べたが、「名ばかりは」の初同は、〈東北〉の初同よりも遙かに静寂に謡わねばならない。景趣(けいしゅ)相違(そうい)である。だいたい三番目物、(こと)に〔大小序ノ舞(だいしょうじょのまい)物〕の前場の初同といえばこの曲のごとく寂しい景趣を(じょ)したものが多い。