「能にしたしむ会 東京公演」上演にあたって 片山伸吾師インタビュー


主に京都で活躍する片山家の片山伸吾師が自身の会「能にしたしむ会」の東京公演を開催するにあたって話を聞いた。

——11月23日に「能にしたしむ会 東京公演」がございます。今回は東京での第2回目の公演になります。

東京でシテを勤める機会が少ないのと、東京の稽古場を古くから設けておりますが、お社中さんに京都へ足を運んでいただくばかりでしたので、自分の会を東京でしたいなと思っておりました。 第1回東京公演は、新型コロナウイルスで国立能楽堂が閉まってしまう直前のタイミングになってしまいました(2021年4月17日)。その時の演目は復曲能《わたつみ》でした。

《わたつみ》は、福岡の志賀島(しかのしま)(「漢委奴国王」の金印が出土したことで知られる)にある志賀海神社さんを舞台とする能で、謡のみ伝わっていたものを復曲し、2017年に大濠公園能楽堂、翌年の京都の「能にしたしむ会」で上演しました。当初より志賀海神社さんから、東京でもぜひ上演したいとうかがっていたので、東京で《わたつみ》をやるという目的と、自分の会をやりたいというのがちょうど合致したのです。《わたつみ》は昨年(2025年9月14日)、大濠公園能楽堂での再演も果たしました。

——「能にしたしむ会」は、お父様の片山慶次郎先生(1932—2010)が発足されて、京都では昨年第46回を重ねられたのですね。 

昭和42(1967)年、私が生まれる一年前に父が始めた催しでして、当時は東京の先生が京都へ来る機会が少ない時代で、観世寿夫先生や先代の観世銕之亟先生を京都へお呼びしたいという目的で始めたそうです。初めは単発でやるつもりだったと思うんですが、二回目が四年後くらい。それが隔年になり、毎年になりました。

私が大学を出る頃から、父と私が能を一番ずつ演じる形になりました。三十代半ばあたりからは番組作りも、父から「もうお前考えろ」と言われました(笑)。もちろん父がやりたい曲を聞いて、自分も希望を認めてもらえれば、それに挑戦するという形です。父が存命の時から、私が企画しておりました。 

——慶次郎先生の頃は、東京で一度も開催していませんか。

しておりません。 ただ、新作能《鷹姫》を京都で初上演(観世寿夫・片山博太郎〔幽雪〕・野村万作)したのが、「能にしたしむ会」の第二回でした。また、特別公演として《百万》の舞台の清凉寺に出向き、国宝の釈迦如来の前で父が《百万》を舞うなど、当時としてはわりと実験的なことも企てていたようです。

——今回の会のテーマは「片山家所縁の能」ということですが、片山家について教えてください。

片山家のルーツを父が若い頃に調べていたみたいなんです。私も今回パンフレットに書くにあたって、いろいろ調べました。父も私も、こういうことを調べるのが好きというか、使命だと思っている部分もあります。簡単に申しますと、うちの家はもともと丹波で、佐々木という姓だったらしく、おそらく丹波猿楽に携わっていたのだと思いますが、そのあたりのことはほぼわかっていません。小鼓方大倉流の上田敦史君が丹波に住んでいるので協力を頼んでいますが、現在につながるようなことはなかなか出てきませんね。 

今わかっていることは、片山家の初代が江戸の中期頃、丹波から、いわゆる「京観世」の全盛期で謡文化だけだった京都へ出てきて、二代目の時に江戸の観世大夫(14世清親)にしかるべく稽古を受けて戻ってきたことによって、いわゆる「立チ方」として逆に京都で重宝されるようになりました。ですから、京都には片山家より古いお家がありますので、そこからすると後発の家だったわけです。

片山 伸吾(かたやま しんご)
シテ方観世流。1968年片山慶次郎の長男として生まれる。父および伯父の9世片山幽雪(人間国宝)に師事。1972年、仕舞《鶴亀》で初舞台。重要無形文化財総合認定保持者。古典芸能全般の勉強会「花習塾」や、様々な分野で活躍する人とお互いの世界について語り合う「紬の会」を主宰。公益社団法人能楽協会京都支部常議員。公益社団法人京都観世会理事。一般社団法人京都能楽会理事。公益財団法人片山家能楽・京舞保存財団評議員。

——今回の東京公演の最初の演目は、片山九郎右衛門先生の《ひとり翁》ですね。

《ひとり翁》は、比叡山の麓の日吉大社(滋賀県大津市坂本)で奉納されています。日吉大社はもともと近江猿楽の本拠地でした(世阿弥の『申楽談儀』に近江猿楽の山階が翁を一人で勤めている旨が記されている)。

現在は毎年元日の朝5時からの大戸開(おおとひらき)神事の中で、片山家が勤めさせていただいています(現在は片山伸吾師の従兄弟で、片山家当主の片山九郎右衛門師が勤めている)。昔は大晦日に片山家の当主が一人で逢坂山を越えて日吉大社に出向き、装束の着付も全て一人でおこなっていたと聞いています。正式な《翁》と区別するために《ひとり翁》と名付けられたのだろうと思います。 

千歳も出ませんし、翁の舞もないので、動くところはそんなにありませんが、夜明け前の非常に暗い中、かがり火の中での《ひとり翁》は厳かな雰囲気です。現地はとても寒くて、本当は元日の日吉大社に来ていただいて、その温度ごと体感して欲しいところですが、東京の方には足を運びにくいので、今回はせめてこの空気感を舞台上でお見せしたい、と思いました。舞台に雪洞(ぼんぼり)を出して照明もなるべく暗くする演出でさせていただきます。大きな雪洞は大変苦労して自分で探し出したもので (笑)、それもお楽しみにいただければと思います。

——《三輪 白式神神楽》についてお聞きます。これは片山家の小書とうかがっていますが……。

江戸末期、鷹司政通(たかつかさ まさみち)というお公家さん(鷹司家は五摂家のうちの一つ)の還暦のお祝いに、《三輪》 を「誓納」の小書で舞いなさいというお達しが来たんです。当時はうちの 5代目(片山九郎右衛門豊尚)でしたが、「誓納」という小書はご存知の通り、お家元の一子相伝なので、こちらではできませんとお返事をいたしましたところ、それに代わるものを作りなさいという命令が下りました。京都のお囃子方や、金剛流の野村三次郎氏にまで相談に乗っていただいて作ったのが、この「白式神神楽」だとうかがっております。

《三輪》は、能の中でおそらく一番小書が多い曲なんじゃないかなと思います。小書なしでも非常によくできている曲ですが、それぞれの小書に特徴があって面白い演出になっています。その中でも、手前味噌になりますが「白式神神楽」というのは名前のとおり、後シテの白装束姿が、殊更清々しく神々しい雰囲気を醸し出します。

現在では観世流の小書の一つになっており、番組を見ていますとたくさんの方がなさっている人気の小書ではありますが、私としては、やはり片山家の人間として「片山家の白式神神楽」をお見せできればという思いがございます。 30代半ばで初演させていただき、4、5年前に京都観世能で 二回目をさせていただきました。東京でどうしてもお見せしたいという思いがあって、次の東京公演では「白式」をやろうと決めていたんです。それで今回の会は《ひとり翁》と合わせて「片山家所縁の能」というテーマにした次第です。 

——出演者も京都からいらっしゃる方が多い印象です。

《三輪》のお囃子方は、京都ゆかりの方に出演していただこうと思っておりました。曽和正博先生は、今は東京にいらっしゃるけれども元々は京都の方ですし、河村大さんは名古屋の方ですけれども京都に来られて久しく、「白式」を京都で何回も勤められています。その空気をそのまま持っていきたいなと思っております。

——仕舞《玉之段》を勤めるご子息の峻佑さんもがんばっておられますね。

息子は大学4年生で、12月に22歳になります。5月に膝を痛めまして、今はまだリハビリ中ですが、この11月の頭には復帰できるように頑張っている最中です。

幸いにも、今、三役を含めて息子と同世代の子が結構おります。みなで和気藹々と順調にやっているようです。そういう意味で彼らにとっては非常にいい環境になりつつあるなと思いますが、仲良しだけではダメで、舞台上ではもっと切磋琢磨して欲しいと願っております。 

——お狂言は、山本東次郎先生と茂山七五三先生の《月見座頭》ですね。

東次郎先生は、私の代になってから「能にしたしむ会」(2013年6月16日)に初めてお呼びしました。その時は《屋島 弓流 那須》の間狂言をしていただいて、舞台上はもちろんのこと、先生のお人柄にも大ファンになりました。それから二度ほどお呼びしたんですが、今年はこちらが東京へ行くので先生にぜひ勤めていただきたい、とお願いしました。東次郎先生に曲を選んでいただいて、《月見座頭》とおっしゃったので、お相手は七五三さんにお願いしたいなと考え、この度の東西人間国宝の共演が実現しました。今回の番組のもう一つの目玉です。 ぜひ公演当日をお楽しみにしていただければと思います。


片山伸吾師より 2026年11月23日 第2回能にしたしむ会 東京公演のお知らせ


第2回 能にしたしむ会 東京公演 公演情報

2026年11月23日(月・祝)13:30開演 観世能楽堂

【番組】
「ひとり翁」 片山九郎右衛門
狂言「月見座頭」 山本東次郎・茂山七五三
能「三輪 白式神神楽」 片山伸吾
ほか 

【チケット】
※SS席・S席中正面 完売
S席:10,000円
A席:8,000円
B席:6,000円
C席:4,000円