奥深い能楽扇の世界〈その2:中啓と鎮め扇〉

中啓と鎮め扇

能楽で使う扇を大きく二つに分類すると「中啓ちゅうけい」と「しずめ扇(鎮メ扇、あるいは鎮扇とも)」の二種類がある。鎮め扇は、仕舞のときに使われるので「仕舞しまいおうぎ」とも呼ばれる。

一般では聞き慣れない中啓という言葉は、その姿を表しており、扇を閉じたときに先端がなか(中)ばひら(啓)いているという意味である。親骨を途中から曲げて仕上げてあるため、閉じてもハの字に開いている。その開きがあるため、手に持ったときにボリューム感があり、閉じた状態でも扇面の図案や色がちらっと見えるので華やかさが漂う。この中啓を持つのは装束を着けた能の登場人物なので、装束とのバランスもよい。

中啓

これに対して鎮め扇は、貝が口を閉じるように両端の親骨がパチリと強く締まる。能の扇を持ち慣れない人は、この鎮め扇をうまく開くことができないほどである(扇の開閉については十松屋福井扇舗のホームページ十松屋福井YouTubeを参照)。どうして、こんなに強く締まるのか福井さんにたずねると「かなめで締めていると思われる人もいらっしゃるようですが、実は親骨をめる技術によって、締めているんですよ」という。横からみるとたしかに緩やかに湾曲しているが、それにしてもよく締まる。そこには職人の高い技があるのだろう。

観世流の鎮め扇