① 大小序ノ舞の女性夢幻曲
〈東北、井筒、野宮、半蔀、夕顔、仏原、采女、楊貴妃、二人静、江口、定家、芭蕉、源氏供養(身延、梅)〉
〈井筒〉
この曲の情趣は既述のとおりであるが、主人公は振分髪の幼時からひとりの男を恋い慕う純真無垢な女性であり、その可憐な風姿を包むに荒れ果てた古寺の秋の夜をもってしたのが本曲の曲趣であるから、艶美と静寂の二つが全曲ににじみ出るように謡えれば成功である。

前シテの出の長い謡で、シテの美しい風格をしみじみと味わしむるとともに、四囲の寂しい景情を心行くばかりに感受せしむべきはいうまでもないが、そうした情趣は次の問答から初同へと続いて行く。問答については、〈東北〉で述べたが、「名ばかりは」の初同は、〈東北〉の初同よりも遙かに静寂に謡わねばならない。景趣の相違である。だいたい三番目物、殊に〔大小序ノ舞物〕の前場の初同といえばこの曲のごとく寂しい景趣を敍したものが多い。
