海にせり出した硝子の舞台。写真や映像でご覧になった方も多いのではないだろうか。最近では4月にクラウドファンディングで行われた新作能「媽祖(まそ)」のプロモーション映像でも登場した。ここは小田原市にある小田原文化財団 江之浦測候所(えのうらそっこうじょ)にある、光学硝子舞台(こうがくがらすぶたい)である。
この舞台に平行に設置されている隧道(冬至光遥拝隧道)には冬至の朝、相模湾から昇る太陽光が貫く。また、海を背景にした舞台に対する観客席はイタリアの古代ローマ円形劇場遺跡を実測し再現したもの。客席からは硝子の舞台が水面に浮いているように見える。
小田原文化財団は、現代美術作家・杉本博司氏により、2009年に設立され、江之浦測候所は2017年に、杉本氏自らが構想し、建設された芸術施設。杉本氏は開館当時、「縄文時代以来受け継がれてきた日本文化の特質は、人と自然が調和の内に生きる技術。江之浦測候所は古代人の心をさぐるべく、一生をかけた集大成」と、述べていた。
江之浦測候所施設は、光学硝子舞台のほか、石舞台、ギャラリー棟、茶室、庭園などから構成され、冬至以外にも、相模湾から昇る太陽光を計算して設計されている。夏至光遥拝100メートルギャラリーでは、夏至の朝日がギャラリーの通路にまっすぐ入り込んで駆け抜け、石舞台では橋掛りにあたる石橋が春分・秋分の朝日の軸線に重ねられている。
夏至光遥拝、冬至光遥拝の鑑賞は、これまで毎年開催されてきたが、今年は「World Weather Network(ワールド・ウェザー・ネットワーク)」(アートを通じて世界中で深刻化する環境問題や気候変動と向き合うために発足されたプロジェクト)参加の一環としてライブ配信(無料)される。
〔夏至光遥拝 配信日時〕
2022年6月21日(火)4:00~5:00 a.m. (JST)
日の出時刻: 4:29 a.m.ごろ
※ライブ配信は無料でご鑑賞いただけます
〔配信プラットフォーム〕
◎YouTube
◎Instagram live
https://www.instagram.com/enoura_observatory/
江之浦測候所は実際に見学ができる施設。まだ訪れていないという方はぜひ一度足を運んでみては。
(杉本博司氏の新刊書)
2020年に日本経済新聞で連載された「私の履歴書」に大幅加筆された『杉本博司自伝 影老(かげろう)日記』(新潮社、3190円)が刊行されている。
杉本氏作の能「巣鴨塚」や江之浦測候所を含む全36章が、豊富な図版とともに綴られた初の自叙伝。カバーは杉本氏が蒐集してきた古裂を使用し自装したもの。注文はこちら。