12月7日、法政大学は第46回観世寿夫記念法政大学能楽賞の受賞者を発表し、シテ方観世流の清水寛二師とシテ方宝生流の金井雄資師が受賞した。
また、第34回催花賞は狂言方大蔵流の善竹十郎師が受賞した。
受賞理由は以下の通り。
清水寛二(しみず かんじ)師
〔受賞理由〕銕仙会の中核として活躍する氏は、多様な芸術ジャンルと能との接点を探る試みに取り組み、総合舞台芸術としての能のあり方を追及する意欲的な活動を、長年にわたり行ってきた。特に座・高円寺での新作能〈長崎の聖母〉〈ヤコブの井戸〉〈望恨歌〉〈沖縄残月記〉の連続上演は、氏の活動の総決算として高く評価される。
〔主な経歴〕観世流シテ方。1953(昭和28)年1月11日、奈良県に生まれる。早稲田大学教育学部卒。早稲田大学在学中に故山本順之の指導を受け、銕仙会に入門。故観世寿夫、故八世観世銕之亟、九世観世銕之丞に師事する。84年〈猩々乱〉、85年〈石橋〉、91年〈翁〉、2001年〈望月〉、22年〈卒都婆小町〉を披く。銕仙会定期公演、西村高夫との「響の会」などで古典曲の上演を続ける一方、復曲能〈諏訪〉〈丹後物狂〉や、多田富雄作の新作能〈一石仙人〉〈沖縄残月記〉〈長崎の聖母〉のシテ、演出も多くつとめる。13年には「還暦記念 五尉能」を銕仙会能楽研修所で上演。15年にはアメリカで〈長崎の聖母〉、19年にはヨーロッパでディートハルト・レオポルド作〈ヤコブの井戸〉他を上演。24年には座・高円寺において日本・韓国・琉球の伝統芸能が一堂に会する「日韓琉鎮魂のまつり」を企画し、戦争を題材とする新作能〈望恨歌〉〈沖縄残月記〉の連続上演を行った。
現代劇、ダンスなど他の表現分野との共演や、江戸糸あやつり人形の結城座、韓国の農楽、琉球の組踊、中国の昆劇など、他の伝統芸能との共同による舞台作りにも積極的に取り組んでいる。18年よりピアニストの高橋アキらと「青山実験工房」を始め、銕仙会能楽研修所にて湯浅譲二作曲「舞働」「雪は降る」、武満徹作曲「水の曲」、高橋悠治作曲「夢跡一紙」などを上演。シリーズ講座「世阿弥の伝書を読む」「金春禅竹を読む」など、普及のための活動も多い。沖縄県立芸術大学非常勤講師・東京藝術大学非常勤講師を歴任。座・高円寺演劇創造アカデミー講師。公益社団法人銕仙会理事。一般社団法人日本能楽会会員。
金井雄資(かない ゆうすけ)師
〔受賞理由〕宝生流シテ方として修業を重ねてきた氏は、故近藤乾三以来の重厚で堅固な謡を受け継ぎ、外連味のない堅実な演者として着実に成果を挙げている。なかでも2024年7月の〈安宅 延年之舞〉は、的確な技術とスケールの大きさ、気迫に満ちた存在感によって、多くの観客を魅了する優れた舞台成果であった。
〔主な経歴〕宝生流シテ方。1959(昭和34)年8月9日、宝生流シテ方・故金井章の長男として東京に生まれる。父および、故近藤乾三、故松本惠雄、十八世宗家・故宝生英雄、故近藤乾之助に師事。65年、5歳の時に〈鞍馬天狗〉の「花見」で初舞台。78年〈禅師曽我〉で初シテ。86年〈乱 和合〉、88年〈道成寺〉、90年〈石橋 連獅子〉を披く。2001年に重要無形文化財(総合指定)の認定を受け、05年に〈翁〉を披演。その後も09年に〈望月〉、16年に〈隅田川〉、18年〈景清〉、22年〈綾鼓〉と、大曲の上演を重ね、流儀の中堅として活躍している。2024年7月の宝生能楽堂四十五周年記念公演では、流儀の非常に重い秘曲である〈安宅 延年之舞〉を上演した。25年3月の国立能楽堂特別公演では、新演出での復曲能〈武文〉に中心メンバーとして参加し、初演時に父の演じたシテ武文の役に挑む。
1979年より富山県の「高岡能楽会」顧問として鑑賞会等の事業に協力、長野県佐久市の「佐久創造館」では特別講師として小中学生を含む幅広い世代に稽古をつけるなど、各地の能楽の発展・普及に尽力、また2018年からは佐渡天領薪能の監督、指導に就き、島内の能楽保存、発展に寄与している。アレキサンダーテクニークと連携した能の身体を考えるワークショップ、謡曲の発声による詩の朗読と現代音楽との共演など、他分野との交流にも意欲的。米国、イタリア、アラブ首長国連邦、タイなど、海外公演への参加も多い。
紫雲会、紫影会、かたばみ会を主宰。佐久創造館特別講師。公益社団法人能楽協会専務理事。一般社団法人日本能楽会会員。
善竹十郎(ぜんちく じゅうろう)師
〔受賞理由〕氏は大蔵流狂言方として研鑽を積む傍ら、長年にわたって保育園から大学まで様々な学校で狂言を教え、普及に努めてきた。祖父彌五郎、父圭五郎、と伝えられてきた家の芸と伝承が、八十代を迎えた氏の中で円熟し、独特の明るさを持つ芸風で見る者を魅了している。
〔主な経歴〕大蔵流狂言方。1944(昭和19)年8月13日、故善竹圭五郎の長男として大阪市に生まれる。本名茂山十郎。早稲田大学第一政治経済学部政治学科卒業。祖父故善竹彌五郎、父故善竹圭五郎、伯父大蔵流24世宗家故大藏彌右衛門に師事。51年〈靭猿〉で初舞台。65年〈翁〉千歳、66年〈那須語〉、67年〈翁〉三番三、68年〈釣狐〉、97(平成9)年〈花子〉を披く。アメリカ、フランス、ルーマニア、ブラジル、ウルグアイ、ベネズエラ、韓国、イタリア、アイスランド、オーストリア、スイス、イギリス等、海外公演にも多数参加。イタリアのコメディア・デラルテの役者とのコラボレーションによる新作狂言、シェイクスピア劇の翻案狂言や、ディケンズの『クリスマス・キャロル』を翻案した音楽狂言「寿来爺(スクルージ)」(コントラバス・アコーディオン・ヴァイオリンの伴奏による)など、新たな企画にも積極的に取り組んでいる。
83年芸術選奨文部大臣新人賞、93年大阪文化祭賞受賞。早稲田大学エクステンションセンター講師をつとめるほか、桐朋学園芸術短期大学・昭和音楽大学ミュージカルコース・くらしき作陽大学非常勤講師・帝京平成大学専任講師・東都医療大学客員教授等を歴任。特に桐朋学園芸術短期大学では、48年間にわたって狂言を指導。その他にも、全国の幼稚園・保育園・小学校・中学校・高等学校・特別支援学校・大学で狂言の特別講演を行い、狂言の普及に尽力する。重要無形文化財総合指定保持者。公益社団法人能楽協会会員(2010年から14年まで理事)。一般社団法人日本能楽会会員。一般社団法人善竹狂言会理事。