第47回 観世寿夫記念法政大学能楽賞に、リチャード・エマート氏と成田達志師、第35回催花賞に見市泰男氏

12月8日、法政大学は第47回観世寿夫記念法政大学能楽賞の受賞者を発表し、リチャード・エマート氏と小鼓方幸流の成田達志師が受賞した。

また、第35回催花賞は面打師の見市泰男氏が受賞した。

受賞理由は以下の通り。

リチャード・エマート(Richard Emmert)氏

〔受賞理由〕自ら「シアター能楽」を創設した氏は、三役を含めた共演者・後進の指導に尽力するとともに、能の音楽面での特徴をよく保持した英語能の制作・上演を続け、「青い月のメンフィス」(2024年)、「オッペンハイマー」(25年)等で優れた成果を見せた。The Guide to Noh of the National Noh Theatre1-6 (12-17年)の刊行が能の全体像を海外に伝えるのに果たした功績も大きい。

〔主な経歴〕武蔵野大学名誉教授。シアター能楽(Theatre Nohgaku)創設者、元芸術監督。喜多流仕舞教士。1949年、米国オハイオ州生まれ。68年、アーラム大学入学。70年、早稲田大学国際部の留学生として初来日し、伝統邦楽と芸能に関心を抱く。アーラム大学卒業後、73年に再来日。同年より仕舞・謡を習い始め、75年には東京藝術大学大学院音楽研究科に入学。小泉文夫・横道萬里雄に師事して日本およびアジアの伝統芸能について学びつつ、四拍子の実技も身につけ、79年に修士号を取得。85年、同大学院博士課程修了。

 81年に初めて英語能At the Hawk’s Well (鷹の井) の作曲・演出を行って以来、85年、Drifting Fires(漂炎)、88年、St.Francis (聖フランシス)、2009年、Pagoda(パゴダ)、13年、Blue Moon Over Memphis(メンフィスの青い月)、15年、Oppenheimer(オッペンハイマー)等、英語能作品の作曲・編曲・演出等を数多く手がけ、自らも出演してきた。1990年にはCD「英語能」も制作している。近年は英語能だけではなく、2022年のフランス語能Medea(メディア)、26年上演予定のスペイン語能「隅田川」など、活動の幅を広げている。

国内外でワークショップ、レクチャーなどを意欲的におこない、1991年以降、東京・米国ブルームズバーグ・英国ロンドン大学ロイヤルホロウェイ校で順次、 Noh Training Project を開始し、一定期間集中して能のトレーニングができるシステムを構築した。2000年には そこでのメンバーなどとともに、シアター能楽を創設し、24年には「青い月のメンフィス」、25年には「オッペンハイマー」の日本での上演を成功させた。国立能楽堂出版のThe Guide to Noh of the National Noh Theatre を始め、編著書多数。19年度小泉文夫音楽賞受賞。

成田 達志(なりた たつし)師

〔受賞理由〕幸流小鼓方として研鑽を積んだ氏は、その掛声・音色・間のどれもが高い水準を保ち、当代を代表する囃子方の一人として活躍している。本年は、大鼓方山本哲也氏とのユニットTTR50回記念能での「景清」、日経能楽鑑賞会での「杜若 素囃子」等、多くの重要な舞台でその本領を発揮した。長年のTTRの活動も、能楽の普及・発展への貢献として高く評価される。

〔主な経歴〕幸流小鼓方。1964年、神戸生まれ。故曽和博朗ならびに曽和正博に師事。74年、小学5年生で小鼓を始め、曽和正博に入門。同年、居囃子「女郎花」で初舞台。75年、小鼓方を志し、曽和博朗に内弟子として入門。同時に京都能楽養成会に入会。76年、金剛青年能で初能「舎利」。82年に「猩々乱」、83年に「石橋」を披く。86年、独立を許され、能楽協会大阪支部に移籍。92年、「道成寺」(シテ片山清司)、94年、「翁」頭取(シテ金剛巌)、2002年、「卒都婆小町」(シテ片山九郎右衛門)、15年、「姨捨」(シテ梅若玄祥)、23年、「檜垣」(シテ大槻文藏)を披演。

1988年、大阪の若手能楽師5人とともに能楽グループ『響』を結成。2002年には、大倉流大鼓方の山本哲也とともにTTR能プロジェクトを結成し、能楽堂以外の場所でのライブ能やワークショップを行うなど、能楽の可能性を切り拓く新たな試みに積極的に取り組んでいる。TTR能プロジェクトは毎回大きな話題を呼び、25年の大槻能楽堂での記念公演で50回を迎えた。1979年、スペイン・マドリード、82年、国際交流基金ASEAN公演(フィリピン・インドネシア・タイ・韓国)、92年、アメリカ・ニューヨーク、ギリシャ・アテネ演劇祭、2010年、オランダ・アムステルダム、12年、ブルガリア、24年、イギリス・ロンドンなど、海外公演への参加も多い。1980年より達磨会を主宰。95年、大阪能楽養成会幸流小鼓講師に選任。能楽の普及や若手能楽師の育成にも力を入れる。神戸新聞に隔週月曜日夕刊でコラム「能楽事始」を連載。

芸術選奨文部科学大臣新人賞を受賞。重要無形文化財(総合指定)保持者。一般社団法人映像実演権利者合同機構(PRE)理事。公益社団法人能楽協会常務理事。一般社団法人日本能楽会会員。

見市 泰男(みいち やすお)氏

〔受賞理由〕能面打としての確かな技術と豊かな感性を有する氏は、完成度の高い能面を数多く制作して現代の舞台を支えるとともに、国内外に所蔵される膨大な数の古面の修復、新作能のための創作面の制作、能面史を更新する研究執筆活動等、幅広い分野で活躍している。能面制作技術の継承のため、後継者の育成に積極的に取り組んでいることも大いに評価される。

〔主な経歴〕能面打。1950年、大阪生まれ。69年、大阪府立北野高校卒業。73年、能面研究家中村保雄の紹介で大阪の石倉耕春に入門し、本格的に能面打としての修業を始める。87年、独立。石倉耕春門下時代には「見市泰春」、独立後は「見市泰男」の焼印を用いる。

長年にわたって能面制作、古面修復に従事。片山家・観世銕之丞家・梅若家をはじめとする能楽諸家所蔵面の写しを制作するほか、四天王寺蔵の舞楽面、壬生寺蔵の狂言面、祇園祭大船鉾の神面の写し、佐陀神能の神楽面の制作など、幅広い分野で仮面制作に携わっている。2021年には、新作能「媽祖」(シテ片山九郎右衛門)のための新面「媽祖」「千里眼」を制作。彦根城博物館・林原美術館・佐野美術館、厳島神社・多賀大社、スイス・チューリッヒのリートベルク博物館ほか、国内外の博物館・寺社等が所蔵する古面修復の実績は優に1000面を超え、現代を代表する能面打の一人として活躍している。

能面史に関する研究も精力的に行っており、雑誌『観世』に連載された「能面考」、西野春雄監修『能面の世界』(12年、平凡社)に掲載の能面解説は、制作者としての深い見識と、膨大な古面調査の経験に裏付けられた成果として評価が高い。15年には、国立能楽堂でのスーパー能「世阿弥」に用いられた天河大辨才天社所蔵阿古父尉面の写し制作の様子が、龍村仁監督のドキュメンタリー映画「ガイアシンフォニー8番」に取り上げられた。京都嵯峨芸術大学(現嵯峨美術大学)大学院非常勤講師・京都造形芸術大学(現京都芸術大学)通信教育学科非常勤講師を歴任。

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