曲の解釈と謡い方【一、脇能】(9)

竜神その他〔舞働〕の類(2)

―春日龍神―

この曲は、春日明神が明恵上人(みょうえしょうにん)入唐渡天(にっとうとてん)を押し止めるというだけのことで、前シテは明神の命によって時風秀行(ときふうひでゆき)が化身した宮守の尉であり、後シテはこれまた明神の命で出現する竜神であるから、まさに脇能竜神物の一つといってよい。これが五番目―略脇能となっているのは演出の如何(いかん)によることだと思う。つまり神性を強調して演ずれば(まぎ)れもない脇能になるが、怪異な竜神の動きということを主眼にすれば切能(きりのう)の趣になるのである。しかしこれは後場の話であって、前場はどう演出してみても脇能というほかないと思う。


―賀茂―

前場のシテとツレが女性だという、脇能としては非常に異色がある曲である。のみならず、この前シテは御祖(みおや)の神と称する女神の化身であって、後場ではこの神がツレの天女として本体を現わし、別に後シテとして別雷(わけいかづち)の神が出現するというややこしい関係に出来ている。