現在、国立劇場養成所の能楽(三役)の第13期研修生を募集している(1月30日まで。詳細はこちら)。前回の募集で入ってきた研修生は、今、どう思っているのか。現在研修中の第12期研修生に話を聞いた。
第12期の研修生は3名で、2023年4月から研修を開始。約6か月間はワキ方、狂言方、囃子方のいろいろな役の研修を受け、自分が何を専攻したいのか、講師の先生の方からは誰をプロとして育てたいのかを考える期間となる。現在、12期生は専攻が決まって2年3ヶ月、研修期間は残り3年という状況で、毎日稽古に励んでいる。また、今年から国立能楽堂主催公演での楽屋実習が始まり、青翔会(研修発表会)にも出演、実践的な研修が増えている。

ーーなぜ太鼓方を希望したのですか
大学に通いながら研修を受けていたんですけど、昨年大学を卒業しました。大学の卒論は「『平家物語』と世阿弥作修羅能」というテーマで書きました。囃子全般に興味があって研修に応募しましたが、専攻を決める直前まで悩んで、結局「音色が素敵だ」と思った太鼓を希望しました。
ーー残りの研修3年間での目標は
能楽界の知識が足りていないので、流儀の特徴やこれまでの偉大な先人の能楽師の知識など、もっと勉強が必要だと思っています。卒業した後の生活に不安はあります。卒業しても一人前にはなれていないと思いますが、最終的に一人前になる用意をしてゆきたいと思います。

ーーなぜ狂言方を希望したのですか
子どもの頃に演劇の子役をやっていたので、漠然と囃子方よりも立方、特にワキ方を希望していましたが、適性審査までの間に狂言の芸に触れて、こちらの方が自分に合っているかしれない、また現在の先生について行きたいと思って、狂言方を希望しました。
ーー残りの研修3年間での目標は
まだスタートラインにも全然立てていない状態ですが、それがようやく遠くにぼんやりと見えてきた気がします。6年目を終えた段階でスタートラインに着いていられるように、助走をつけてゆきたいと思います。

ーーなぜ大鼓方を希望したのですか
研修生になる前は、実は能を見たことがありませんでしたが、伝統文化が好きで応募しました。研修見学会の時に大鼓の演奏を見て、打っている姿がとても素敵だと思いました。
ーー残りの研修3年間での目標は
今は観世流の謡や舞を覚えていますが、いろいろな流儀を勉強して、私に任せても大丈夫だ、と思ってもらえるように頑張りたいです。
3人とも、これまでの研修期間で辞めようと思ったことはないという。謡を覚えるのが大変という気持ちはあるが、稽古が厳しくて辛いというより、常に新しい学びがあり、むしろ楽しく研修をしているようだ。
現在プロの大鼓方に女性はいない。その理由としては、掛け声が独特であることや、楽器の扱いに力が必要で肉体的な問題もあると想像できる。中村さんはどのように研修を受けているのか。その様子を見学させていただいた。
この日、中村さんを指導するのは安福光雄師(高安流宗家預かり)。安福師のほかに大鼓を指導する講師は二人いるが、実際の道具を使って指導するのは安福師の時だけで、そのほかの講師の時は手のひらを大鼓に見立てて稽古をしているとのこと。
稽古が始まると、中村さんが革締め(調べ緒と革2枚を胴に組むこと)を始める。それを安福師に見てもらい、師のOKが出たら、実際の演奏の稽古になる。

大鼓は演奏だけでなく革締めも、手指に負担がかかる。最初は切れたり出血したりしていたが、最近ではタコもでき、指が太くなって指革のサイズを変えなければならないほどになったという。
安福光雄師のおはなし

大鼓、特に高安流は大鼓を打って鳴らすことよりも、掛け声と姿勢が大事です。特に掛け声は、低い声や高い声を出して声をあやつる必要があります。
研修生は最初に全ての楽器をやってもらいますが、彼女(中村さん)が専攻を決める際に大鼓を選びました。大鼓は現在女性はいませんけど、女性に大鼓は無理だ、という時代でもないし、総理大臣も今は女性ですからね。
男女関係なく、研修生は全体として稽古場では声がよく出ていると思いますが、舞台に出た時に声が大きく聞こえない、ということがあるように思います。あと3年で一人前にしていかなければいけないので、こちらも大変です。
私のような能楽師の家の子は、子どもの頃鞄持ちから始まって、稽古も早くからやっていますから、自然と大きな声が身についています。けれど、やらされてやっていた私たちと違って、研修生たちはやりたくて入ってきているから、能の詞章に関心を示したりして、素晴らしいことだなと思います。
研修発表会などだんだん舞台に出ることも増えていきますが、実際の舞台では稽古とは違うことが起こります。稽古ではこう教わったから、こうしないと、と決めつけていると対応できないことがあります。その場その場に合わせた応用力が必要になってきますが、彼女にはその力があると思いますよ。
研修制度は後継者を絶やさないための制度ですが、研修を終えて卒業した後に仕事を続けていけるようなサポートがもう少しあったらいいと思います。国立能楽堂の主催公演ではそれなりに出演もできますが、囃子方はフリーのミュージシャンのようなものですから、「こういう囃子方がいます」と周知していくことも大事だと思います。
研修生たちの残りの研修期間はあと3年。きっとまだ身につけることはたくさんあるだろう。研修を終え、プロの能楽師として活躍する日を楽しみにしたい。




