狂言方和泉流の野村万蔵師が、12月22日(日)、主宰する「万蔵の会」で4度目の「釣狐」に挑む。自身としては最後の「釣狐」になることも発表した。
万蔵師はこれまで、25歳、35歳、45歳の節目の年に「釣狐」を上演してきた。55歳の時に発足させた「万蔵の会」の第一回で「釣狐」を予定していたが、胃がんの手術のため断念。59歳の誕生日前日の今公演で最後の「釣狐」を演じる。
人によっては年齢を重ねて、その年々の「釣狐」をなさる方もいらっしゃいますが、「猿にはじまり狐に終わる」と言われるように、今回本当にこれで修行過程を終え、退路を断つ気持ちで思い切って「鳴き納め」とすることにいたしました。
また、今回は狐の手袋と足袋を新調した。鹿革の足袋を使用するのは、本来「三番叟」と「釣狐」だが、近年「三番叟」は木綿の足袋を使用するようになったため、革足袋は「釣狐」のみに使う。革足袋の製作者も減りつつあるという。奈良県十津川村に、命を無駄にしないことをコンセプトに、ジビエ料理や革製品等を提供する「十津川じびえ塾」がある。万蔵師がここで働く姉妹に知り合い、革足袋の製作を依頼したことで、今回の新調がかなった。
なお、万蔵家の狐の面は戦争で焼失してしまったため、山本東次郎家の面の写した狐の面(昭和時代に活躍した面打ち師の入江美法氏が打ったもの)を使用するそうだ。
25歳で「釣狐」を披いた時は、申し合わせで気絶した経験があるという万蔵師。
「釣狐」はやはり特別な曲。狂言の役者は誰でも、「釣狐」は大変だと言うと思います。私はいつも10キロ痩せたり、自然の音がいつもより聞こえてくるような、神経が研ぎ澄まされる感覚があります。初演の時のようなフルパワーではできませんし、良い意味で一生懸命やらない、と言いますか……。自分自身が納得、満足するようにやりたいですね。
アドの猟師には、名古屋で活躍している狂言共同社の佐藤友彦師を招く。
ほかの番組は野村万之丞師、拳之介師ほかによる「田植」、野村萬師、石井康太師による「柑子」。
例年、万蔵師の誕生日の12月23日に催している「万蔵の会」だが、今年は月曜で能楽堂が休館のため、前日の22日に開催する。会場は観世能楽堂。目付柱を取り外すため、中正面席からでも遮られるものがなく、観客は迫力のある舞台を楽しめるはずだが、役者にとっては面をつけての演技に目付柱は欠かせない。小猿の役の時に舞台から落ちた経験があるという万蔵師は、「落ちないことを願って臨みたい」と笑顔で語った。
※「万蔵の会」発足時(2021年)の記事はこちら
※「釣狐」noteの記事もよろしければご覧下さい。