謡本の製作工程
まず謡本を作る手順を、簡単に説明してみたい。
製作工程
- 印刷済みの紙を裁断
- 折る
- そろえる
- 丁合(ページ順に並べる)
- しめる(折りのくせ付け)
- 裁断・糊つけ
- 角裂をつける
- 表紙をつける(「かけ」)
- 外題をはる
- とじるための穴あけ
- 糸でとじる
- バーコードをつける
- 完成
文字の印刷は外部の印刷所で行われることが多く、印刷済みの大きな紙が水谷さんのところへ届く。袋綴じになるように、これを裁断し、折ってページ順に並べる(「丁合」をとると言う)。
それから角裂をつける。角裂とは、本の背の上下二箇所につけられた色のついた布のこと。
曲の位によって色が異なり、水色(平物)、黄(習物)、紫(重習)の三色がある。
それから表紙をつける(かける)。この作業を「かけ」と呼ぶ。そして曲名が書かれた外題(題簽)の紙を貼り、糸で綴じると本の形となる。外題の紙の大きさや貼る位置も決まりがあり、他の謡本や手付本などでは表紙の中央に貼ってあるものもある。ちなみに外題の地紙の図案は、観世宗家の紋の矢車。
ちょっと機械に助けてもらう
糸で綴じる作業では、針を通す部分にあらかじめ穴を開けるが、その際は機械を使う(右の機械)。謡本の製作は、ほとんどが手作業だがところどころで、簡単な機械に助けてもらう。
作業をする上で意外に重要なのが折りの工程。紙を折って、しっかりと折りくせをつけておくことで、その後の作業が格段にやりやすくなるという。それを恭子さんは「しめる」という言い方をしていた。これも機械の力を借り(左の機械)、しめた状態で丸一日おいておく。
「かけ」の作業
恭子さんから話をうかがっている間、そばで葵さんがずっと表紙をつける「かけ」の作業をしていた。具体的には、表紙の紙を規定の大きさに折る動作をいう。
竹のへらを使うが、これは竹屋に特注で作ってもらったものだ。素早くリズミカルな手さばきで、見ているとそれほど力が必要には見えないが、昔は男仕事とされていたほど身体に負担がかかる作業。謡本を作るプロセスで、一番時間がかかるという。
「娘がこの仕事をやって二年くらいたったころでしょうかね。肩のあたりが痛いというので整骨院へ連れて行ったら、肩甲骨の位置がずれてしまっていました。それからは三週間に一度くらいの頻度で、整骨院へ通うようになりました」。
ちなみに角裂をつけるのは女仕事とされていたそうだ。角裂は、装飾的な意味もあり、また本の傷みを防ぐためのものだが、これをつけるのがまた手間がかかるらしい。
薄い布に紙が裏打ちされた特製の布を、小さな四角い形に切って準備しておき、それから貼る作業をする。なにごとも下準備が大事だが、貼るまでにも大変な時間がかかっている。