【レビュー】映画「幾春かけて老いゆかん―歌人馬場あき子の日々」

歌人・馬場あき子氏の93歳から94歳にかけての1年を見つめた、ドキュメンタリー映画「幾春かけて老いゆかん」が上映中である。

映画は2021年、馬場氏が全歌集を出した直後の冬から始まる。コロナ禍に見舞われた当初は自宅での仕事の様子、映画後半では出向いた先で、歌人として様々な仕事に精力的に取り組む様子が捉えられる。迫力すら感じられる仕事への姿勢には老いの影など微塵もなく、ざっくばらんな語り口調には親しみを感じる。

氏は能に造詣が深いことでも知られ、若い頃から能の稽古をし、評論などを執筆、新作能も書いている。観能することはもちろん、申し合わせや楽屋での能楽師とのやりとり、能楽公演で解説、鼎談をする姿も映され、能楽界での活躍の広さが伝わる。

最初こそ90歳以上ということを意識して見ていても、映画が進むにつれて年齢など関係なくなり、その飾らない人柄、周りの人々との情に厚い交流など、氏の人物そのものにどんどん魅了されていく。

映画のコピーに「歌を詠み能を愛して八十余年 強くて明晰でしかもチャーミング こんな風に生きられたなら」とあるが、見終わったあと、まさに「こんな風に生きられたら」と思った。

友枝昭世、友枝雄人、友枝真也、山本東次郎、片山九郎右衛門各師らの登場シーンもある。

語り・國村隼、音楽・渡辺俊幸、監督・田代裕

公開は5月末東京新宿より始まり、京都、大阪、名古屋などを経て、7月15日からは、氏の地元でもある川崎市、8月4日からは宮崎市で上映される。

公式ホームページはこちら

また7月27日(木)川崎市アルテリオ映像館では、10時からの上映のあと、馬場氏と田代監督によるトークイベントが行われる予定。

イベントの詳細はこちら