曲の解釈と謡い方【二、修羅物】(4)

―箙―

梶原源太景季(かじわらげんたかげすえ)は、芝居では風流男で聞えた若武者であるが、能では平太(へいだ)の面をかけるのだからそれほどの色男ではなく、身分も〈田村〉や〈屋島〉とは比べものにならぬ若い一部将にすぎない。だから前場では卑賤な青年に化身して現われるが、この人にも一枝の梅を箙にさして奮戦したという雅懐(がかい)があった。それが前場の潤いとなっている。後場では修羅の苦患が特に強調されていることが文章でもわかる。

―兼平―

負修羅ではあるが、平太物だから曲趣は剛健である。兼平は木曽義仲(きそよしなか)の部将であり、武骨で純情な荒武者である。前場においては湖上の老舟人に化身して、旅僧に沿岸の名所を教えたりするところにちょっぴり詩を盛り、後場においてはその壮烈をきわめた最後を剛快に表現する。修羅の苦患すら訴えない最も強い修羅物といってよい。