曲の解釈と謡い方【二、修羅物】(5)

平太の類(3)

―頼政―

いわゆる老武者の一つであるが、頼政は平家討伐の陰謀を(くわだ)てた張本人であり、位は三位に昇っており、それに歌道にも聞えた人物であるから、人品、性格、心境ともによほど複雑である。曲趣の解釈としてはまずそういったところから着眼してかかる必要があり、謡い方も平太物に比べると変化に富んで複雑である。

前場の前段は名勝宇治(うじ)の里の景趣がさながらに描かれているところがすこぶるよい。初同しょどうのごとき特に詩心をこめて謡うべきところである。後段になって、シテの語リは極めて簡単なものではあるが、頼政の千万無量(せんまんむりょう)の思いが内に(ぞう)されていなければならぬ。この語リによって()き起された詩情はワキの謡で表現され、そうした情趣のうちにシテは名乗(なのり)をあげて静かに消え失せるのであるから、この中入地はよほど心してしっとりと謡わねばならない。この前場は修羅物でも有数な趣の深い前場だと思う。

後場がまた、修羅物の中でも最も変化に富んだものである。まず後シテの姿からして、頼政という特殊面に頼政頭巾(よりまさずきん)を被り、法被(はっぴ)半切(はんぎりという変わったいでたちで、一癖(ひとくせ)も二癖もある老将の風格を持っている。したがって謡もすべて老武者の重みと強みを堅持(けんじ)しながら複雑な心持をこめて謡わねばならない。