平太の類(3)
―頼政―
いわゆる老武者の一つであるが、頼政は平家討伐の陰謀を企てた張本人であり、位は三位に昇っており、それに歌道にも聞えた人物であるから、人品、性格、心境ともによほど複雑である。曲趣の解釈としてはまずそういったところから着眼してかかる必要があり、謡い方も平太物に比べると変化に富んで複雑である。
前場の前段は名勝宇治の里の景趣がさながらに描かれているところがすこぶるよい。初同のごとき特に詩心をこめて謡うべきところである。後段になって、シテの語リは極めて簡単なものではあるが、頼政の千万無量の思いが内に蔵されていなければならぬ。この語リによって惹き起された詩情はワキの謡で表現され、そうした情趣のうちにシテは名乗をあげて静かに消え失せるのであるから、この中入地はよほど心してしっとりと謡わねばならない。この前場は修羅物でも有数な趣の深い前場だと思う。

後場がまた、修羅物の中でも最も変化に富んだものである。まず後シテの姿からして、頼政という特殊面に頼政頭巾を被り、法被―半切という変わったいでたちで、一癖も二癖もある老将の風格を持っている。したがって謡もすべて老武者の重みと強みを堅持しながら複雑な心持をこめて謡わねばならない。