曲の解釈と謡い方【二、修羅物】（7）

―経正―

経正は敦盛につぐ年少の公達(きんだち)である。戦死した美少年が生前愛用した琵琶を懐なつかしがって姿を現わすというのは、哀れにも美しい一つの詩である。ただそれだけの曲ではあるが、小品的佳作たることは間違いない。

この曲には化身がなく、いきなり経正の本体つまり後シテが現われる。非常な異格的構成であるが、これは次の清経その他狂女きょうじょ物などにときどき見られる手法である。以下全部が後場であるから、シテの出からワキとの掛合、それを受けた地と、すべて〈屋島〉で述べたような後場にお定まりの動的な謡い口で謡わねばならない。

ところが後場が非常に長いから、ワキの「不思議やな」云々のコトバは一旦落ちついて、ワキもシテも地謡もしんみりした情調で謡うのであるが、琵琶を手向(たむ)けるあたりから再び気がかかってきて、［クセ］のあとから［キリ］へかけて、夜遊(やゆう)の舞楽(ぶがく)に打ち興きょうじるうちにまた修羅の苦患に引き戻され、灯火(ともしび)を吹き消した暗まぎれに消え失せて行くまでの趣おもむきを、修羅物らしいキビキビした口調で謡い現わすのである。