曲の解釈と謡い方【二、修羅物】(8)

中将の類(3)

―清経―

修羅物中でも最も劇味に富んだ曲である。清経は武士としてあるまじき人物だといって排斥(はいせき)する地方もあったそうだが、戦争の前途を見通して自殺するということは、因習的に奮戦して討死(うちじに)することよりも現代人の感覚に訴える点が多い。しかし能や謡としては、あまり複雑な劇的解釈を試みるよりは、端的にそうした哀れな武人の心情に詩を見出して、これを幽玄の舞歌によって表現するという行き方であってほしい。

この曲もいきなり後シテが出るから、普通には一場曲といわれているが、この曲はまさしく前後二場曲であり、ただ前場ではワキとツレのみが活動してシテが出現しないだけである。ワキは俗に「(かさ)のワキ」などといって、もっぱら哀傷(あいしょう)の心持を含んで謡うべきものであるが、行きすぎてはかえって味がなくなる。ツレの清経の妻は、清経が元来若い公達だからこの妻も非常に若い。その若い妻の悲恋が前場のテーマであるが、心持を内面深くぞうして表面はツレらしく淡々と謡うがよい。淡々といってもからっぽは問題にならない。