曲の解釈と謡い方【二、修羅物】(8)

―通盛―

この曲も夫婦の恋情が戦場ロマンスとなっているが、主人公通盛みちもりは清経と違って、戦争に懐疑(かいぎ)を持たず勇敢に戦って討死した点が修羅物の本格らしく見える。

前場はそれ自身の景趣けいしゅが画になり詩になっている。夏の夜の海浜、岩の上で読経(どきょう)する僧、その蔭にかがり火を()いた舟を寄せる老漁夫と若い海女(あま)、この景情が謡い現わせれば巧い。いうまでもなく舟の二人は通盛と小宰相(こざいしょう)(つぼね)の化身である。

後場も二人が相携えて本体を現わす。シテは公達風の軍装、ツレは美しい唐織(からおり)姿という花のごとき夫婦であって、その出現には特に太鼓がはいる。名乗(なのり)をあげるとすぐ戦さ語りに移る。この曲は出陣の間際まぎわに夫婦別離の酒を汲むという情緒のこまやかさを見せるところに異色があるが、そのあとは型どおりの修羅物である。