曲の解釈と謡い方【二、修羅物】(9)

―巴―

ともえは木曽義仲の愛妾(あいしょう)で、美しい女武者である。前シテは普通の若い女の唐織(からおり)姿であるが、後シテは十寸髪(ますかみ)の面に長鬘(ながかづら)梨子打烏帽子(なしうちえぼし)唐織壺折(からおりつぼおり)大口(おおくち)という姿で、太刀(たち)を帯し長刀(なぎなた)を持った天晴(あっぱれ)の武者振りであるから、女ながらも修羅物に列するのである。

この曲は戦いと織りまぜて女性の濃情が一曲に盛り上がっている。前シテはただの里の女であるが、しんみりした〔アシライ(だし)〕の囃子で登場して義仲の(ほこら)に涙を流すところから始まり、夕陽傾いて入相(いりあい)の鐘が波に響く中に消えて行くところまで、思慕しぼの情緒こまやかなものを見せる。

後場は、勇ましい奮戦の場面と、義仲との生別死別という悲嘆の場面との交錯が特色である。能では長刀さばきの鮮やかなところが非常な見せ場となっているが、謡って興味が深いのは末段の別離の場面である。この後場は、全体を通じて女性の献身的な愛情が戦いのきびしさの形において描き出されたところに興味があるのであって、単に場面の緩急変化を謡い分ければよいといったものではない。