曲の解釈と謡い方【一、脇能】(5)

〔真ノ序ノ舞〕その他老神の類

―〈老松〉〈白楽天〉〈雨月〉〈蟻通〉―(放生川)

〔真ノ序ノ舞〕の曲は〔神舞〕の曲と相並んだ本格的な脇能といってよいが、その曲趣はほとんど対蹠たいしょ的である。むろん神能の通有性ともいうべき(けが)れなく爽やかといった根本の情趣には変りがないのであるが、〔神舞〕の曲が陽気で颯爽たる感じであるのに対し、〔真ノ序ノ舞〕の曲は幽雅(ゆうが)にして森厳(しんげん)といった感じのものである。

〔真ノ序ノ舞〕は老神にかぎってまう舞であって、三番目の〔序ノ舞〕よりも一段と静かな趣を持っている。この舞の趣がやがて全体の曲趣といってよいのだから、脇能の中では最も幽玄味に富んでいる。しかしそれは泰平を寿(ことほ)いで遊楽する老神の閑雅(かんが)にして気高(けだか)い風格からきたことであるから、ものの哀れを内容とする三番目物の幽玄味とはまるで趣が違う。神舞物は動的にして爽快に、〔真ノ序ノ舞〕物は静的にして閑雅に謡うとされているが、その静けさは、崇高森厳のうちに瑞気がただようといった陽性の静けさである。そこが脇能たるゆえんである。

本脇能の〔真ノ序ノ舞〕は〈老松〉〈放生川〉〈白楽天〉しかなく、中にも〈放生川〉は作がよくない。ほかに四番目の〈雨月〉も〔真ノ序ノ舞〕である。これは純然たる脇能とはいえないかもしれぬが、〔真ノ序ノ舞〕であるから、曲趣の類別としては脇能の中に入れるほかない。同じく四番目の〈蟻通〉には舞がないが、これまた老神といった意味でやはりこの類に入れてよいと思う。