曲の解釈と謡い方【一、脇能】(8)

竜神その他〔舞働〕の類

―〈竹生島〉〈春日竜神〉〈賀茂〉〈嵐山〉〈玉井〉―
(和布刈、九世戸、江野島、逆矛、氷室、金札、岩船)

この種に属する神は、竜神とか雷神といった怪異な面貌(めんぼう)を持ち、舞ではなく〔舞働まいばたらき〕を演じるものであって、勇壮にして豪快といった趣がある。この類でも後場にツレの天女が出て来て場面を賑わせている。

この類の神には種別があって面で区別されている。〈竹生島〉〈和布刈めかり〉〈九世戸くせのと〉〈江野島〉は黒髭(くろひげ)、〈賀茂〉〈嵐山〉は大飛出(おおとびで)、〈逆矛さかほこ〉〈氷室〉は小癋見(こべしみ)。〈玉井たまのい〉は悪尉(あくじょう)といったあんばいである。そうした本脇能以外にも、〈春日竜神〉は本籍五番目だが曲趣の類別としてはこの類に入れるべきものだと思う。竜神だからむろん黒髭である。また〈金札〉と〈岩船〉は、観世では前シテを省いて半能(はんのう)の形とし、切能の祝言にのみ用いるが、他流では全曲を演じており、曲趣はまさにこの類にはいると思う。面は〈金札〉は天神、〈岩船〉は黒髭である。

この類は概して神位が高くない。またシテに舞がないことからいっても脇能としては略式といった感がある。特に〈竹生島〉などはかなり前場の趣が普通の脇能と違うが、〈和布刈〉その他、〔真ノ次第〕から構えこんだ曲も少なくない。しかし正式な曲はみな内容が無味乾燥であり、かえって略式にくだけた曲のほうに佳作がある。