#能楽と職人たち/田村民子

古典芸能、郷土芸能から祭りまで、日本の楽器を支える老舗商店

2021年の宮本卯之助商店

東京都台東区浅草六丁目。浅草駅から歩いて10分あまりのこの場所は、江戸時代、芝居小屋が建ち並び、一大歓楽街として賑わった「猿若町」だ。現在は、その面影は薄いが、瓦屋根に虫籠窓、黒い柱がどっかり構える宮本卯之助商店・本店の前に立つと、ここはそういう土地だったということが感じられる。

宮本卯之助商店・本店

「能楽と職人たち」のために取材で訪れてから、5年が経った。そのときは、もちろんマスクをせず、差し向かいで心ゆくまで話を聞けた。だが、今はコロナ禍。再訪を楽しみにしていたが、電話での取材に切り替え、広報担当者から話をうかがった。

ちなみに、この原稿を書いている2021年9月初旬現在、東京都の一日の新規感染者数は、2-3千人で推移し、能楽関係の公演でも中止や延期になるというニュースも、ちらほら聞こえている。どんなに対策をしていても、いつでも誰でもかかる可能性があるという状況。ワクチン接種率は、ざっくり半分とったところ。感染の危機感は、これまでで一番、大きいように感じる。

電話取材に対応してくれた女性は、入社5年目だという。「厳しい残暑でしたね」などと雑談をしつつ、新型コロナ感染拡大が宮本卯之助商店に与えた影響からうかがってみる。

「昨年春のコロナ禍の始まりの頃は、就業時間を変更したり、分散での出勤に切り替えたりしました。その後も、状況に合わせて、いろいろ対応をしながら、継続しています」とのこと。

能楽に関する楽器については、前回紹介した謡本の製作現場と同様に、能楽の公演が減ったことに連動して、太鼓や小鼓、大鼓などの注文が減少。公演がほとんどなかった2020年春から夏の期間が、もっとも落ち込みが激しかったが、現在は少しずつ回復しているという。「本番の無いこの機会にメンテナンスをしたい」という依頼もあるそうだ。

演奏者と宮本卯之助商店は、単なる買い手と売り手の関係ではないのだな、と感じるお話もあった。

「感染拡大の影響で公演中止が続いた時期、演奏に関わるお客様からはライブ配信や新しい公演の方法についての取り組みやご相談をいただきました。」

本編でも紹介したように、宮本卯之助商店は、伝統のものづくりの世界において、普段から時代の先を見据えた、新しい試み行っている。コロナ禍初期の2020年6月には、「ビデオ通話によるリモート来店」をはじめている(https://www.miyamoto-unosuke.co.jp/company/blog/1998/)。こうした動きを見た演奏者たちが頼りにしたのだろう。

2021年、宮本卯之助商店は創業160年を迎えたという。

会社のHPには、社長の宮本芳彦さんの言葉がかかげられている。

「時代の変化に合わせながら、日本文化として恥じない製品を作り伝えていくことは時に労苦を伴います。しかしグローバル化の進む現代において、日本の祭や伝統芸能の果たす役割は益々大きくなっています。祭の持つ人々を繋げる力、世界に誇れる伝統芸能は、日本を特徴づける固有の文化だからです(抜粋)」

この数年、海外、特に欧米で太鼓を始める人が多くなっているそうだ。海外製の安価な太鼓もあるが、「本格的な宮本の太鼓が欲しい」という人もいて、長胴太鼓や大太鼓などの注文が増えているという。

宮本卯之助商店らしいな、と感じるこんな取り組みもある。

「森をつくる太鼓」と銘打って、東京都の森林資源を生かした太鼓づくりを行っているのだ。巨樹が多いことでも知られる東京都西多摩郡檜原村の木材を用いて桶胴を製作するというこの取り組みは、「環境とものづくりの双方への関心を高め、豊かな循環型社会のあり方を東京から発信している」と評価を受け、東京都「江戸東京きらりプロジェクト」モデル事業に選定されている。今、社会ではSDGs(継続可能な開発目標)がキーワードになっているが、その方向性にも合致している。

それから、太鼓や太鼓台への抗菌・抗ウイルス加工を行うサービスもスタートさせている。今は感染の不安から、だれもが「触る」ことに敏感になっている。太鼓などの楽器に携わる人たちが、安心して活動を継続するための大切な取り組みといえる。

これからの時代、伝統芸能、そしてそれに付随する「ものづくり」を未来につなげていくためには、「いかに社会を意識できるか」、「継続させるためには、なにをどう変化させるべきかの判断力」にかかっているように感じる。宮本卯之助商店は、そのよいお手本といえるだろう。

(写真提供/宮本卯之助商店)

(文・田村 民子)

宮本卯之助HP

https://www.miyamoto-unosuke.co.jp/company/index.php

オンラインショップ

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ブログ

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太鼓資料館

「伝統芸能の道具ラボ」主宰 田村たむら 民子たみこ

1969年、広島市生まれ。能楽や歌舞伎、文楽などの伝統芸能の裏方、職方を主な領域に調査や執筆を行う。作れなくなっている道具の復元や調査を行う「伝統芸能の道具ラボ」を主宰。観世流のお稽古歴、7年。

東京新聞、朝日・論座、朝日小学生新聞などに執筆。