謡の参考書ベストセラーの著者、三宅秔一について

連載にあたって

今回、Webマガジン立ち上げにあたり、絶版になっている『謡い方百五十番』(うち、曲別細説)を「曲の解釈と謡い方」として連載する。
そのきっかけは、近年、「細かい節付(ふしづけ)の説明ではなく、曲全体の謡い方が説明されている本はないか」という問い合わせが寄せられることだ。この要望に応える本を探すと、「曲趣(きょくしゅ)」について書かれている三宅(みやけ)秔一(こういち)氏の『謡い方百五十番』がそれにあたると思われた。

檜書店の謡参考書としてベストセラーともいえる『(ふし)精解(せいかい)』『拍子精解』『謡稽古の基本知識』などの書籍を執筆した、三宅秔一氏は、玄人の能楽師ではないが、長く謡の稽古をして、謡について理論的・総合的に文章化した。観世流に限らず、謡の稽古を経験した方なら、氏の著書を目にした方も多いのではないだろうか。

氏が檜書店から初めて本を出したのは、戦後まもない1948年。現在、三宅氏のことを知る人も少ないと思うので、『能楽大事典』(筑摩書房)の三宅氏の項目を引用しておく。

「次第からキリまでの謡ひ方」(1948年 檜書店)

三宅秔一【みやけこういち】
1890(明治23)-1970(昭和45)2・8 能楽研究・評論家。転勤により各地に住むが、後年は東京居住。大阪出身。東京帝国大学法学部卒業後、逓信省に入り、1936年(昭和11)大阪逓信局長を最後に退官。以後、発電会社に関係したが、第二次世界大戦後は職を退き、著述に専念する。謡を初め福王流の栄保介、以後勤務地の移転に伴い観世流の小沢良輔(東京)・尾崎玉鉾(名古屋)・井上嘉介(京都)・24世観世左近(東京)に師事。幸流小鼓もたしなんだ。謡の音楽的研究を進め、著書に『謡の基礎技術』(1939、東文書院)、『次第からキリまでの謡い方』(1948、檜書店。増訂版・1952)、『節の精解』(1951、檜書店。新訂版・1962)、『拍子精解』(1954、檜書店。新訂版・1967)、『曲趣の解釈と謡い方』(1957、檜書店。改題改訂版『謡い方百五十番』1969)、『謡稽古の基本知識』(1978、檜書店)などがあるが、とくに『謡の基礎技術』は各流の比較を踏まえて謡の技法を理論的に解明し体系づけたものとして高く評価される。

連載開始にあたって、三宅氏の孫にあたる三宅きょう氏に掲載の御了解をいただいた。また、秔一氏の甥にあたる村上陽一郎氏(東京大学名誉教授)に、秔一氏のことおよび氏との思い出について文章を寄せていただいた。(Noh+編集部)