観世寿夫記念法政大学能楽賞に、狂言研究の稲田秀雄氏と味方玄師・催花賞に武蔵野大学能楽資料センター

12月7日、法政大学は第44回観世寿夫記念法政大学能楽賞の受賞者を発表し、山口県立大学国際文化学部教授の稲田秀雄氏とシテ方観世流の味方玄師が受賞した。

また、第32回催花賞は武蔵野大学能楽資料センターが受賞した。

受賞理由は以下の通り。

稲田 秀雄(いなだ ひでお)氏

〔受賞理由〕氏の近著『狂言作品研究序説』は、諸流台本の緻密な分析と、説話・談義・注釈など周辺文芸世界への周到な目配りとによって、作品の形成過程を見事に読み解き、狂言研究に新たな地平を切り拓いた優れた研究成果である。また、長年にわたって山口鷺流狂言保存会の顧問を務め、その普及・継承に大きく貢献している点も高く評価される。

〔主な経歴〕山口県立大学国際文化学部教授。1957年京都生まれ。1980年同志社大学文学部文化学科卒業。1984年同志社大学大学院文学研究科修士課程修了。京都市立日吉ヶ丘高校教諭、山口女子大学文学部講師、山口県立大学(山口女子大学を改称)国際文化学部助教授を経て、2002年より現職。

主な研究領域は、能・狂言を中心とする日本中世劇文学。著書に『狂言作品研究序説―形成・構想・演出―』(和泉書院、2021年)、共著に『天理本狂言六義』上巻・下巻(三弥井書店、1994~95年)、『山口鷺流狂言資料集成』(山口市教育委員会、2001年)など。

近年は「山口鷺流台本の系統(一)~(七)」(『山口県立大学国際文化学部紀要』19~25号、2013年3月~2019年3月)等、山口市に伝わる鷺流狂言の系統的研究を手掛けるかたわら、山口鷺流狂言保存会顧問として、『山口鷺流狂言保存会五十年の歩み』(2004年)、『同六十年の歩み』(米本太郎と共編、2015年)など、同会の活動記録の作成等、研究者の立場からの支援も行う。

最近は、永井猛・伊海孝充とともに新出の宝暦名女川本に関する法政大学能楽研究所の共同研究に取り組み、同本の翻刻や関係論文の執筆も進めている。

味方 玄(みかた しずか)氏

〔受賞理由〕観世流シテ方として研鑽を積んできた氏は、近年気力・技ともに充実し、本年7月の〈道成寺〉をはじめ、数々の魅力的な舞台成果を示している。豊かな感性と的確で端正な演技によって創り出される氏の舞台には、特に若い世代を中心としたファンも数多い。能楽の将来を担う役者の一人としてさらなる活躍が期待される。

〔主な経歴〕観世流シテ方。1966年10月8日、観世流シテ方・味方健の長男として京都に生まれる。父および故片山幽雪、十世九郎右衛門に師事。71年、〈鞍馬天狗〉の花見で初舞台。78年〈猩々〉で初シテ。92年〈石橋〉、96年〈猩々乱〉、97年〈道成寺〉を披く。その後も〈砧〉〈求塚〉〈望月〉〈三輪 白式神神楽〉〈恋重荷〉等の大曲上演を積み重ね、2021年11月には独立30年を記念して〈卒都婆小町〉を披演。

96年、より自由な舞台世界の創出をめざして「テアトル・ノウ」を立ち上げ、自身が課題とする曲目への挑戦、勉強の場とするとともに、座敷、ホールなどさまざまな空間での演能を実践。2007年以降は東京と京都で年に1回ずつの公演を企画し、若い世代やそれまで能になじみのなかった人たちなど、新しい観客層をも惹きつける演能活動を続けている。

また、2002年KBS京都テレビ能楽入門番組「能三昧」(全28回)の監修・出演、2006年の『能へのいざない』(淡交社)出版のほか、すでに100号を越える「能のみかたくらぶ」会報誌の発行など、能の普及活動にも早くから熱心に取り組んできた。ドイツ、アメリカ、フランス、ブラジルなど海外での公演やワークショップ、他ジャンルとの共演、新作能や復曲能の上演などへの参画も多い。

2001年京都市芸術新人賞、2004年京都府文化賞奨励賞を受賞。2011年重要無形文化財(総合)認定。公益社団法人京都観世会理事。弟は観世流シテ方の味方團。三女の梓は京都能楽養成会に所属しシテ方の修業中。

武蔵野大学能楽資料センター

〔受賞理由〕1972年の設立以来、近現代の能楽に関する文献・視聴覚資料の収集に努めるとともに、その研究・公開に精力的に取り組み、能楽界に多大な貢献をしてきた。質の高い公開講座・狂言鑑賞会を長年にわたって開催し、コロナ禍の中にあってもオンラインでの配信を継続するなど、能楽の普及と啓蒙に向けた意欲的な活動は称賛に値する。

〔主な経歴〕1972年4月、安藤常次郎・増田正造・小林責(運営委員)、土岐善麿・古川久(顧問)により、近現代の能楽研究を目的に設立。あわせて能楽関係の書籍・雑誌・紀要などの文献と演能会の番組・パンフレット・チラシ・映像ほか、現代に生きる演劇としての能楽の資料も収集している。当初は文学部日本文学科研究室にて内々に活動していたが、86年4月、スペース的に独立し、対外的な活動を積極的に行うようになる。現在のおもな研究・啓蒙活動は『能楽資料センター紀要』発行、公開講座と狂言鑑賞会の開催である。

『能楽資料センター紀要』は設立当初より発行し、2022年3月現在、33号を数える。センター研究員の研究成果の発表、公開講座の記録、能楽関係の文献要覧などを掲載。公開講座は1999年より開催。毎年、統一テーマを設定し、センター研究員および学外の研究者・能楽師を講師に4回程度の講座を行う。毎回、300~500人が聴講。加えて2015年より研究講座・能楽入門講座を開催(年2回程度)。

狂言鑑賞会は2005年から開始。学内の雪頂講堂に組立式能舞台を設置し、年1回(2公演、計4曲)開催。大蔵流狂言方・山本東次郎家と和泉流狂言方・野村万作家が2年ごとに出演。例年、鑑賞希望者が定員を大幅に越えるため、抽選により招待者を決定(のべ1000人が鑑賞)。21年12月現在の上演曲数は54曲(のべ63曲)。ほとんどを映像専門家が撮影し、現代の狂言の優れた映像記録も作成している。

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