京都観世会 第7回復曲試演の会(6月18日) 復曲能「粉河祇王」〜プレ公演より〜

2023年6月18日(日)13時より京都観世会館で催される、京都観世会第7回復曲試演の会に先立ち、4月13日(木)、京都観世会館にて復曲能「粉河祇王(こかわぎおう)」のプレ公演と記者会見が行われた。

京都観世会の「復曲試演の会」は2010年に復曲チームを発足し、2012年に第1回として「阿古屋松」(シテ 片山幽雪)を上演し、以後、作品ごとにチームを編成して今回で7作品目となる。上演が途絶えていた作品を現代の能舞台に復活させるというこの取り組みは、「もし上演され続けていたら、現代に生きる能楽師はどのように演じるか」を思いながら、文献をひもとき、2年がかりで節付けや型付けなどを行い、上演に臨んでいる(第7回復曲試演の会 委員会 片山九郎右衛門・青木道喜・浦田保親・橋本光史・田茂井廣道・松井美樹・河村和貴・大江広祐)。

復曲委員長の片山九郎右衛門師は「現在の自分たちのスキルを次世代へ繋げてゆくため、過去に先人たちが苦労して能を作り上げた、その道筋をたどる作業をみんなでやってゆこうという思いで始めた」と、復曲試演の会立ち上げの理由を語った。

「粉河祇王」は、平清盛の寵愛を受けた白拍子の名手・祇王とその父の、情愛と観音信仰の功徳を描く。別名「籠祇王(ろうぎおう)」とも呼ばれる本作は、世阿弥の息子・十郎元雅かその周辺の人物が作ったと目され、世阿弥伝書にも登場する「風月延年(ふげつえんねん。寿命を延ばす効用の意)」や「遊楽(いうがく。能が遊楽たることを強調した言葉)」の言葉が詞章に見える。

「粉河」とは地名で、『枕草子』にも登場する粉河寺(和歌山県紀の川市)周辺を祇王の出身地とする説があり、祇王が父のために舞ったという「舞田」の地名が残る。

復曲能「粉河祇王」あらすじ  粉河某(ワキ・御厨誠吾)が登場すると、粉河の地で争いが起こって一人の若者が牢に入れられたが、牢の番人が若者を不憫に思い、逃してしまったことを告げる。この番人が祇王の父で、罪人を逃した罪は重いと牢に入れられる。明日処刑という日、祇王(シテ・青木道喜)が従者(トモ・宮本茂樹)と都から駆けつけ、面会を懇願する。舞を舞うことを条件に父(ツレ・浦田保親)と牢越しの対面を果たし、いよいよ首を斬られる時刻、一心に観音に祈る二人の前で振り下ろされるはずの刀が二つに折れるという奇瑞が起こる。父は許され、祇王とともに都へ帰るのだった。

今回の復曲では、祇王が旅姿から白拍子の姿に装束を替え、父から相伝されたという舞を舞う。また、間狂言(小笠原由祠)は復曲ならではの工夫を凝らしている。

6月18日の本公演では、古演出による「昭君」も演じられる。本作も親子の絆を描く作品で、胡国へ送られてしまった娘・昭君(子方・味方遥)を案じる父・白桃(前シテ・吉浪壽晃)と母・王母(ツレ・浦部幸裕)が娘の身を案じ、鏡に娘の姿を映し出す物語。現在の演出では白桃が中入して扮装を替え、胡国の大将である呼韓邪単于(こかんやぜんう)として登場するが、今回は老夫婦二人とも舞台に残り、後シテを別の役者(大江信行)が演じるという本来の演出で行われる。

プレ公演終了後の記者会見には、西野春雄氏(法政大学名誉教授)、片山九郎右衛門師(京都観世会会長、復曲委員長)、青木道喜師、吉浪壽晃師、大江信行師が登壇した。

(写真はすべて 撮影:渡辺真也)

「粉河祇王」を監修した西野氏は、自身が20代の頃から「粉河祇王」という作品の魅力を感じていたと話し、牢に入れられるという設定の本曲は、江戸時代に能が式楽となってゆくなかで廃絶したのではないか、と推測した。

また、「粉河祇王」シテの青木師は、「コロナの時期になかなか集まれず苦労したが、復曲委員が喧々諤々と意見を言い合い、なかなか良い会議だった。6月公演までに磨きをかけてさらに良い舞台にしたい」と語った。

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