和綴じ特製の糸
和綴じ本の大きな特徴は、なんといっても糸で綴じられた姿だ。この糸は、なんということもなさそうに見えて、実は細やかな工夫がされている。
まず色だが、謡本用に特注の茶色に染められている。そして撚りがかけてある(撚りのない糸で作られた謡本も多い)。それだけでなく、この糸に恭子さんたちが糊をつけているのだ。糊を煮溶かして、それに糸を漬け込んだ後、二日間干す。
「糊をつけると糸に張りが出るので、綴じる作業がやりやすいんです。糊がないと、たぶん糸がからまって、とてもやりにくいと思いますよ。糊のおかげで、光沢も出ます。それから、綴じる作業をするときには、普通の縫い物のように糸の端を玉留め(玉結び)にしないんです。糸に糊があるので、端をなめておけば糸が紙にくっつきますから」。
糸に糊をつけるのは面倒ではあるが、三つも良いことがある。
綴じる作業
ここまできてようやく、糸で綴じる作業。効率よくやるために、まず針に糸を通す作業を四十本分くらいまとめてやっておく。
針はふとん針を使う。目の前で、恭子さんに綴じる作業をやってもらったが、針がするすると動いて、あっという間に仕上がる。
一時間にだいたい三十から四十冊くらいというペースだそうだ。さきほど話に出たように、玉留めをしないので、出来上がった本のどこを触ってもゴロゴロしたところがない(ぜひご自分の謡本でご確認を)。
ところで、糸がどこからスタートして、どこで終わっているかおわかりだろうか。謡本の綴じ方は、綴じるための穴が全部で四箇所あるため「四つ目綴じ」と呼ばれるが、作業をする恭子さんの手元をじっと見ていると、下から二番目の穴からスタートし、また同じ穴で終わっていた。
最後に裏表紙に値段やバーコードが記載されたシールを貼って、完成。このシールは流通のために必要なものだが、弱粘性の糊を使用し簡単にきれいにはがせるように工夫されている。