奥深い能楽扇の世界〈その1:十松屋福井扇舗の歴史と扇の細部〉

扇の各部の名称

これから扇の種類を紹介していくが、その前に扇の専門用語を少しだけ覚えていただきたい。小さな道具だが、部分を指し示す名称がたくさんある。紙の部分は「地紙じがみ」。土台にあたる竹は「扇骨せんこつ」。扇骨の両端にあたる二本の太い骨は「親骨おやぼね」。その親骨がまっすぐなもの(「肩」なし)もあれば、やわらかに張り出した「肩」があるものもある。親骨以外は「中骨なかぼね」。骨を束ねる「かなめ」の下の端を「緘尻とじり」と呼ぶ。肩や骨、尻など人の身体に例えてあるのがおもしろい。能の稽古をしている人は、ご自身の扇を手元に置いて確認してみてください。

鎮め扇の扇骨(肩あり)
鎮め扇の各部の名称

何にでもちゃんと名前はあるもので、新しい扇に巻き付けられている銀色の紙は「責メ紙せめがみ」という。これを捨ててしまう人もいるかもしれないが、使い終わった後にこの責メ紙をつけておくと扇が形よく長持ちするそうだ。

責メ紙

※この連載は3回にわたってお届けします。

次回〈その2:中啓と鎮め扇〉

「伝統芸能の道具ラボ」主宰 田村たむら 民子たみこ

1969年、広島市生まれ。能楽や歌舞伎、文楽などの伝統芸能の裏方、職方を主な領域に調査や執筆を行う。作れなくなっている道具の復元や調査を行う「伝統芸能の道具ラボ」を主宰。観世流のお稽古歴、7年。

東京新聞、朝日・論座、朝日小学生新聞などに執筆。