〔東北〕
この曲は三番目物としては位の重いものではないが、〔大小序ノ舞物〕であるから、〈羽衣〉などとは全然曲趣が違うことをよく心えて謡わぬといけない。

主人公和泉式部は、平安朝女性の中でも人も知る恋愛遊戯の名手であるが、この曲ではそうした個性が全部ぬぐい去られて、ただ歌道に生き抜いた麗人としてのみ描かれている。その上に清らかな梅花を配して、あたかも美人と梅とが二重映しになったような曲である。だから〈井筒〉や〈野宮〉のように個性を描き、劇的心理を描いた曲に比べると物足りない感はあるが、それだけに清らかであり閑雅であって、純抒情詩といった感が深い。
この曲の謡い方は、そうした曲趣に溶けこんで純三番目の情緒で謡うことにある。重っくれてしまっては曲趣を裏切るし、すらすら謡いすぎては三番目の情緒をなくする。要は平淡に素直に謡って、しかも声調や節扱いに優雅繊細な味を持たせるといったことになるが、この曲はいわば三番目物の手習いといったような曲であるから、ここで三番目物の心得といった事柄を二、三述べることとしよう。
