曲の解釈と謡い方【一、脇能】(10)


―玉井―

この曲も形式的には脇能中の働物にはなっているが、後場の趣はむしろ前述のがく物に類する。後シテは竜宮の主で、悪尉(あくじょう)の面に白頭(はくとう)大輪冠竜載(おおわかんむりりゅうたい)という大がかりな姿で〔大癋(おおべし)〕の囃子で登場し、〔(はたらき)〕も普通の〔舞働〕とは全然違って、極めて静かにかつ重々しく動くものであるから、趣が非常に荘重であり雄大である。

この曲はまた脇能としては特異な劇的興味を盛っている。前場ではシテ豊玉(とよたま)、ツレ玉依(たまより)という竜宮の二人の姫と、ワキ火々出見(ほほでみ)(みこと)とのめぐり会いから、竜宮城に導かれて豊玉姫との三年の間の契りを描き、後場はその送別の宴から五丈の(わに)に乗っての帰国といったように、筋が劇的によくまとまっている。前場にはなかなか色っぽい場面もあるが、姫の神性を認識して演出すればりっぱな脇能になるし、後場は前述のような雄大な場面であるから、楽物の後場に類してどっしりと重々しく謡うべきものである。