曲の解釈と謡い方【一、脇能】(8)


―竹生島―

この曲の前場は、春色うららかな湖上の舟の旅と、そこに()のように浮かむ竹生島の景趣を描くといった、ちょっと脇能離れしたものである。したがってワキもシテも普通の〔次第〕と〔一声〕で登場するし、地謡も全部ヨワ(ぎん)になっている。しかし脇能たることは間違いないのだから、ワキの出もシテの出も〈高砂〉の謡い方に準じてすらりとよどみなく謡い、〔問答〕もテキパキと進行させる。地謡も嫌味なく爽やかに謡うのであるが、総じてこの曲の描く長閑な景趣がにじみ出ていないとおもしろくない。

後場はまさに脇能竜神物である。型通りまずツレの天女(弁才天(べんざいてん))が出て〔天女舞〕をまうが、天女は前の(がく)物の場合も同様で、調子を高くすらりと謡う中に美しさと神々しさがなければならぬ。それを受けた大乗地(おおのりじ)は、舞の趣を体して適度の速さで乗りよく謡う。さて竜神は黒髭の面が象徴するごとく豪快で敏捷な神であって、登場楽の〔早笛〕も〔舞働〕の囃子も極めて急調でよく乗る。〔舞働〕は竜神の威勢を示すしぐさ(・・・)であるから、前後の謡もそのつもりでよく乗って強々と謡わねばならぬ。〔天女舞〕のあと「波風頻(なみかぜしき)りに」から急進するのも竜神出現のためである。