2023年、国立能楽堂は昭和58年の開場から40年目を迎える。開場月の9月より開催される開場40周年記念公演を前に、国立能楽堂部長の佐藤和男氏にお話をうかがった。
コロナ禍を経て
──今年5月に新型コロナウイルス感染症が感染法上の位置付けで五類に移行し、様々な制限も解除されました。コロナ禍でのご苦労も多かったことと思います。
佐藤 政府の要請により、令和元年度の2月末の特別公演から、令和2年度の6月までの公演が全て中止になりなり、令和3年度は2公演が中止でした。公演再開後も入場者数制限があり、座席を半数にして販売したり、最前列と橋掛リ沿いの座席は販売を控えたりするなどの制限がありました。最終的に満席での収容が可能になったのが令和3年の9月で、その月はコロナワクチン接種者に限って最前列席チケットを販売しました。
コロナ禍では、「県をまたいではいけない」などの移動制限や、団体のお客様が入らない、ということもあり、また、我々が遠方のお客様向けの営業活動ができなかったことから、国立能楽堂近隣の方々に鑑賞のお声がけをしました。近隣には津田塾大学、國學院大學、将棋連盟、二期会(オペラ公演などを主催)などの文化団体がございます。商店街の方々にもお声がけし、近隣の方とのつながりが増えるなかで、さらに新たなご縁につながる、ということもございました。連携してイベントも行うことができました。
──外国人のお客様もコロナ前の状態に戻ってきていますか。
佐藤 あぜくら会の会員や国内のお客様で満席になってしまう公演もございますが、公演によっては外国のお客様もいらっしゃるようになりました。オリンピックを見据えて令和元年から2年間行った、多言語対応の「ショーケース公演」を今年復活させ、公演日の1週間前にワークショップを実施する、という新たな取り組みも行うことといたしました。公演当日のロビーは、いつもとは違う雰囲気があります。
三役養成事業
──国立能楽堂は三役の養成事業にも力を入れておられますが、昨年度に募集を行い、今年度から第12期生の研修が始まりました。
(昨年、研修生を取材した記事はこちら)
佐藤 能楽に限らず、歌舞伎・文楽の研修生の応募は年々減少しています。養成事業は開場の翌年(昭和59年)から始めていますが、1回目の応募は60名もありました。昨年度は審査の結果、3名が研修を始めています。
募集期間中に体験見学会を実施し、そこに参加した方が応募されるケースが多いです。鑑賞教室で舞台を見て興味を持った方もいらっしゃいました。
ショーケース公演のようなコンパクトな公演など、若い世代の方々に興味を持っていただく機会を増やすことが大切だと感じます。
開場40周年記念の様々な企画
──40周年記念のご予定をお聞かせください。
佐藤 9月6日の観世宗家の「翁」をスタートに記念公演を実施させていただきます。各流儀による名作・大作が並びます。
11月には「能と組踊」をテーマにした上演もあります。
組踊の「朝薫五番(玉城朝薫による組踊の代表作五演目)」の中で、国立能楽堂では未上演だった「執心鐘入」も上演します。
10月の特別企画公演では金剛宗家による「檜垣」を上演します。能「檜垣」の上演は平成15年以来、金剛流では初めてになります。
記念公演の最後を飾るのが3月の特別企画公演で、観世宗家の「鸚鵡小町 杖三段之舞」です。国立能楽堂での「鸚鵡小町」の上演は平成22年以来2度目になりますが、観世流では初めてとなります。
【国立能楽堂開場40周年記念 特別企画公演】
12月23日には「リクエスト能・狂言」を実施します。9月に開催される5回の記念公演にお越しのお客様にご覧になりたい作品へ投票をしていただきます。8月に候補曲を発表する予定で、9月に投票、10月に結果を発表いたします。日頃ご来場下さるお客様のご愛顧への感謝の気持ちを込めて企画いたしました。
また記念イベントとして、7月に近隣の文化団体等とのコラボ企画、8月に過去の映像を見ながら能楽師にお話を聞く特別講座、11月1日の古典の日には特別シンポジウムも予定しております。
●特別講座 8月1日(火)14時 ゲスト野村萬斎/8月31日(木)18時 ゲスト大倉源次郎
●特別シンポジウム 11月1日(水)14時 ロバートキャンベル、梅若紀彰
●リクエスト能・狂言 12月23日(土)13時 企画公演
──資料展示も40周年記念の内容になりますか。
佐藤 35周年記念の際に好評だった楽器の展示を9月から11月に行います。前回よりもさらに充実した展示になると思います。12月から3月は、国立能楽堂が40年をかけて収集してきた収蔵資料展を行う予定です。
──40周年を迎え、さらにこの先の国立能楽堂がどのようになってゆくのかお聞かせください。
佐藤 開場以来変わらない姿勢ですが、普段能をご覧にならないお客様にもっといらしていただきたいと思っています。国立能楽堂では様々なお流儀、全国各地の能楽師にもご出演いただいておりますので、1年間ご覧いただくことで現在の能楽の多彩な姿を広くお楽しみいただける番組になっています。地道に公演記録を作っていくことも大切ですし、養成事業の状況などは厳しくなっておりますが、少しでも能楽界のお役に立てればと思っております。
──40周年記念を楽しみにしております。ありがとうございました。
佐藤 和男(さとうかずお) 独立行政法人日本芸術文化振興会 国立能楽堂部長。昭和六十年、特殊法人国立劇場(現・独立行政法人日本芸術文化振興会)入職。国立劇場、国立文楽劇場、国立演芸場などでの勤務を経て、令和3年4月より現職。
※公演の詳細は国立能楽堂開場40周年特設サイトをご確認ください。