紐と房の種類いろいろ
紐と房は構造によって分類することができる。知っておきたい基本的な種類をご紹介しよう。まず、紐には撚り紐と組紐の二種類がある。撚り紐は、その名の通り、糸をねじって撚りをかけた紐で、狩衣の袖紐などに使われている(写真5の下)。組紐は、帯締と同じ技術で、糸を組んで紐にする。組む糸束の数や組み方を変えることでいろいろな形状の紐が出来る(写真5の上)。組紐と撚り紐の違いは、見た目だけではなく、機能的にも大きな差がある。組紐は、伸縮性があることが大きな特徴で、適度に伸び縮みするため結んだときに、しっかり締まり、ゆるまない。だから面紐は組紐で作られる。撚り紐は、やわらかい風合いが特徴。触って比べると、固さが違うことがよくわかる。
組紐の技術について、もう少し細かく見ていこう。面紐は、組紐の技術のなかの「四つ打ち」という技法で作られている(写真5の上)。「四つ打ちは組紐のなかでも基本的な技法です。糸を動かす力加減を均等にするのがコツで、両手の動きに差があると組目がきれいに揃いません」(写真6)。
柏屋では、非常に長い紐など特殊なものを作ることも多いので、作業で使う道具立ても、一般の組紐とは違う部分も多いそうだ。帯締のように短い紐の場合は、できあがった紐が下に垂れていくしくみだが、たとえば裕之さんが長い紐を作る場合は上へ上へと紐が伸びていく(写真7)。
次に房だが、切り房と撚り房の二種類がある。切り房は、糸を切りっぱなしにしたもの(写真8の左)。帯締は切り房が多い。一方、撚り房は少し手間がかかっていて、糸をねじって折り返し、房の先端がほつれない構造になっている(写真8の右、写真9)。
こうした仕事は、なんとなく静かに座って行っているようなイメージがあるが、裕之さんの作業を一日見ていると、立ったり座ったり、不思議な道具をぐるぐる回したり、糸の束を持って長い廊下を行ったり来たりと、想像以上に身体を動かしている。お仕事場の和室の横には長い廊下があるのだが、糸に撚りをかけるために広いスペースが必要なので家を設計するときに、特別に設けてもらったとのこと。この廊下には八丁という木製の大きな道具が置いてある(写真10)。糸に撚りをかける作業に欠かせないもので、裕之さんの祖父の代から使い継がれてきたそうだ。糸に撚りをかけ、糸が元に戻ろうとする力を利用して、撚り紐や撚り房は作られるが、八丁なくしては作り上げることができない。大事な道具のひとつだ。