江戸時代から人々の足もとを支える手作りの足袋

裏布にネルを使う、能楽の足袋

それでは能楽の足袋に話を進めていこう。足袋をお持ちの方は、実際に足袋を見ながら読んでいただくと、より具体的に理解できると思う。能の足袋が、一般のものと違う大きなポイントは、肌に触れる内側にネル(フランネル)と呼ばれる柔らかく、少し厚みのある起毛織物を使っている点である。一般の足袋ではさらしを用いる。内側がネルだと履いたときに、大げさに言うとちょっとフカフカした感じになる。サンダルと底が厚いスニーカーでは歩いたときの感覚が異なるように、微妙ではあるが一般の足袋とは底の感覚にも違いがある。また、地謡などで長時間正座をする場合には、ネルとそうでないものではしびれ具合が違うそうだ。こうした機能面とともに、見た目にもよい効果がある。

「ネルだと布地に厚みがありますので、足の表面のデコボコしたところを吸収して、ふわっと、まるくきれいに見せてくれます」

と茂雄さん。狂言の足袋は、流儀によって少し差があるが、黄色に縞あるいは黄色の無地。裏布はもちろんネルである。

さて、一般のお客さんとして店に入ったら、どんな風に足袋を選んだらいいのだろうか。大野屋總本店では、既製品とフルオーダーのおあつらえという2コースがある。既製品のほうは、足の長さは21センチから28センチまで、だいたい0.5センチ刻みであり、幅は、細、柳、梅、牡丹の四種類。試し履き用の足袋があるので、試着させてもらおう。既製品でうまく合わない場合は、まず、こはぜの位置で微調整してもらう。しかし、親指が特に長い、足の幅が特に広い、あるいはすごく細い場合などは、あつらえをおすすめしたいとのこと。あつらえでは、シルエットやフィット感など、細かいこだわりにも対応してもらえるのも魅力だ。

採寸の様子

ぴったりサイズに仕上げるために、親指の長さ、太さ、かかと回りなど、片足につき8カ所くらい計測する。長年、さまざまな足を見てきた茂雄さんによると、左右の足は微妙に大きさが異なり、右足が大きい人が多いとのこと。また、現代の若い人は、足のサイズは大きくなっているが、幅は逆に細い人が多くなってきているそうだ。