改造ミシンと木の道具が大活躍
大野屋總本店の足袋は、すべてこの新富町の建物の中で、人の手による流れ作業で作られている。どうぞどうぞという茂雄さんの声に案内されて、店の奥の仕事場へと進む。足袋はおおざっぱに言うと、布の裁断、縫製、仕上げという工程で作られていく(あつらえる場合は、採寸、型紙作りが加わる)。パーツとなる布地は、底、親指側、四本指側の三種類。まずはそれぞれの形の布を作る。底布は固さがあるので、クッキーの型で抜く要領で、簡単な機械を使ってガシャンと一気に裁断をする。普通の足袋店では、底の布は白ばかりだが、大野屋總本店の場合は、歌舞伎やお芝居など特殊なものが多いため、底の布もさまざまな色が必要になってくる。狂言の足袋も、裏は薄い黄色だ。
足の上部を包むための二種類の布(親指側と四本指側)は表布と呼ばれている。表布は数枚から数十枚の布を重ねて、電動糸ノコのような機械で裁断する。
次に縫製。まずはこはぜをつけ、親指側と四本指側の布を甲の部分で縫い合わせた後、それと底布を一緒に縫うという手順となる。一番難しい工程は、爪付け。山あり谷ありの指の部分を表布と底布を一緒にして立体的に、シワにならないように縫わなくてはならない。茂雄さんのお母さんの恭子さんが、この爪付けをされていたが、珍しい形のミシンを手際よく動かして、細かなギャザーを入れながらあっという間に縫い上げてしまう。作業にはミシンが欠かせないが、改造された特殊なミシンを五種類ほど使うそうだ。年季の入った風格のあるミシンばかりで、うかがえば戦前のものも多いという。こまめに手入れをして使い続けている。
裏返しの状態で全部を縫い終えると、ひっくり返して仕上げに入る。さっとアイロンをかけて終わりだと思ったら大間違い。足袋に木製の木型を差し込みなじませて、木の道具で布目を小刻みにトントントンと叩いていく。こはぜを引っかける、かけ糸は手縫いで付けられているが、そのままだと布と糸がなじんでおらずデコボコしているので、木づちで細かく叩いて、平らにする。
そして、最後にアイロンをかけて完成。
ちょっとうれしいのは、こはぜに名前を入れてもらえること。漢字の文字の種類は限られているが、一般的な名前の文字であればだいたいあり、数字やアルファベットも可能。これも手作業だ。