能楽専門の袴を作り続ける老舗のものづくり【前編】

もちやの裃づくり

もちやでは、能楽のためのかみしもも手がけている。

能楽の裃は、正絹の生地に伝統的な型染めで作られたものが正式である。裃も受注生産で作っており、発注者の好みの色と柄であつらえていく。

協力:今井基 師(シテ方宝生流)

製作プロセスを簡単に説明すると、まず、白い正絹の生地を織り、それに型染めを施す。その生地を仕立て職人にまわし、最後に紋屋に出して紋を入れるという流れだ。

「型染めは寒い時期がよいなど、時節も選びます。注文は余裕をもって出していただけるとありがたいです。型染めに使う紋紙もまだたくさん種類はありますが、使っていくうちにだんだん壊れていきます。後継者をうまく育成できていないという声もあり、少し不安を抱えています」

裃の糸は撚りをかけず糊をつけて硬くしたものを使う。風合いにこだわりがある人は、糊の固さも好みに合わせて調整できるという。また、通常は布の表側だけ型染めをするが、同系色で裏を染めることも可能だ。仕立てについても、体型に合わせて前幅を調整し、着用する人の姿が美しく映えるように心がけている。

袴、裃づくりの課題

誠実なものづくりを心がけている佐藤さんだが、近年はちょっと困ったことがあるという。製作費用の値上がりだ。

「糸代も燃料代も、どんどん上がっています。糸染めは米沢の業者に頼んでいますが、これも上昇しています。もちやの利幅をがんばって抑えてはいますが、どうしても最終価格をあげざるをえない状況です」

職人も高齢化しており、作る人たちにもお金がまわらないと後継者も育てられない。いきいきと袴づくりについて語っていた佐藤さんだが、このときだけは、ちょっと表情を曇らせた。

※この連載は前編・後編 2回にわたって連載します。

「伝統芸能の道具ラボ」主宰 田村たむら 民子たみこ

1969年、広島市生まれ。能楽や歌舞伎、文楽などの伝統芸能の裏方、職方を主な領域に調査や執筆を行う。作れなくなっている道具の復元や調査を行う「伝統芸能の道具ラボ」を主宰。観世流のお稽古歴、7年。

東京新聞などに執筆。