奥深い能楽扇の世界〈その3:一本の扇に多くの職人が関わる〉

ただの紙じゃない!?—地紙工程

鎮め扇は、地紙もすごい。素人目にはただの和紙のように見えるが、実は芯紙と呼ばれる特殊な紙を中心にして五枚を貼り合わせてあるのだ。少し後の工程の話になるが、骨と地紙を一体化させるとき、骨の両側から二枚の紙を貼るのではなく、地紙の中心にある芯紙の繊維と繊維の間を割るようにして中骨をスーッと差し込む。そのための地紙を特別に作っているのだ。

さらに流派によっての扇骨の差異に合わせて、地紙の厚さも微妙に変えて全体のバランスをとっているという。こういう目には見えないところにまで気を配って、能の扇は作られている。

和紙を貼り重ねる「合わせ」の作業

貼り合わせた地紙は乾燥させた後、クッキーの型のようなもので扇面の形に裁断する。

「裁断」の作業

舞う扇へのこだわり—地紙工程

地紙ができあがったら加飾の工程に入る。

金箔や銀箔を押す「扇面箔押し」、シルクスクリーンで絵柄を摺る「上絵紗型加工うわえしゃがたかこう」、手描きで絵を描く「手描き上絵うわえ」などがあり、それぞれ別の場所にいる専門の職人が仕事を行う。

「扇面箔押し」の作業

扇面の加飾が終わった地紙は、折りの作業に入っていく。これももちろん手作業。地紙を「折り型」と呼ばれる二枚の型に挟み、職人の手でたぐるようにして折りたたみ、折り目が付けられる。鎮め扇は、仕舞や舞囃子で用いられるが、舞のなかで開け閉めをする所作がある。それが美しくできることも考慮しながら、仕事をしているという。