品質管理にこだわる—仕上げ工程
こうして折り目がつけられた地紙が完成すると、十松屋福井扇舗の二階の作業場に運ばれて、仕上げの工程に入る。
まず八本の中骨に糊をつけていく。
そして糊が乾かないうちに、手早く地紙に中骨を差し込んでいく。五枚貼り合わせたあの特製の地紙には、あらかじめ隙間があけられているが、差し込みやすくするために職人が息を吹き込んで、その空間を広げる「地吹き」を行う。
骨と地紙が一体になったものは、万力という古めかしい道具にはさんで重しをかけ、一晩ほどねかせる(「万力かけ」)。親骨に矯めをかけて内側に曲げ、地紙に接着してようやく扇は完成となる。
“早くて、安い”商品が溢れる世の中で、十松屋福井扇舗の扇づくりはその真逆をいく“時間をかけても、よい品を”という誠実な仕事を貫いている。その底流には、能楽の扇の伝統を自分たちが守らなくてはという強い責任感がある。福井さんは、さまざまな情報を集め、時代の流れに合わせて柔軟に、かつ慎重に変化させながら今のものづくりを維持しようと知恵を絞っている。しかし、作り手だけでは乗り越えられない壁も多い。
これまで引き継いできた能楽の扇のものづくりを続けていくには、「たくさんの扇を作る仕事があることが重要」と福井さんは言う。作る量が多ければ、材料も確保しやすくなり、職人もたくさんの仕事をこなすことで、技量の向上をはかることができる。そうしなければ後継者も育たない。
十松屋福井扇舗の扇は決して安くはないが、この記事を読んでいただければ、価格に見合うだけの立派な理由がそこにあることがおわかりいただけたと思う。お稽古用の仕舞扇を1本買うこと。これも大きな応援のひとつになる。
参考動画「花街を彩る匠の世界─舞扇─」