奥深い能楽扇の世界〈その3:一本の扇に多くの職人が関わる〉

十松屋福井扇舗の商品

能楽の扇のほか、一般の人が日常使いできる扇子も販売している。コロナ禍で新開発した「漆喰京扇子しっくいきょうせんす」は、『抗ウイルス 消臭 抗菌 有害物質吸着除去』機能付きというユニークな商品。「敦盛扇」など能で使われる扇の意匠をアレンジした図案などもある。

十松屋福井扇舗のホームページはこちら http://tomatsuya.sakura.ne.jp

「敦盛扇」をアレンジした漆喰京扇子

取材後記

今の時代、能楽の扇が新しく作られているということは奇跡に近いのかもしれない。そんなことを感じる取材だった。そして「伝統のものづくりの継承」とはなにか? ということを改めて考えさせられた。昔と全く同じ素材、同じやり方で作るというのがもちろん理想だが、時代は変わっていて、そうはいかないことも多い。昔と同じでなければ、やめてしまう、という考え方もあるだろう。だが、可能な限り方策を練って、どうしても無理ならば関係者に相談しながら今の時代の新たな素材に切り替える。福井さんが中心に据えているのは、能楽の扇作りを途絶えさせないこと。苦労話をしているときも、決して湿っぽい顔はしない福井さんから、現代に生きる職人の矜持を感じた。

(2022年12月19日 十松屋福井扇舗に取材)

※この連載は3回にわたってお届けしました。

〈その1:十松屋福井扇舗の歴史と扇の細部〉はこちら

「伝統芸能の道具ラボ」主宰 田村たむら 民子たみこ

1969年、広島市生まれ。能楽や歌舞伎、文楽などの伝統芸能の裏方、職方を主な領域に調査や執筆を行う。作れなくなっている道具の復元や調査を行う「伝統芸能の道具ラボ」を主宰。観世流のお稽古歴、7年。

東京新聞、朝日・論座、朝日小学生新聞などに執筆。